PR業界に「データサイエンス」という武器を
「従来のPR業界は、属人的なノウハウと経験則に頼りすぎていました」――西川亮介氏は、株式会社メディアブリッジを2019年に創業した理由をそう語る。大手広告代理店で12年間デジタルマーケティングに従事した後、PR専業のスタートアップを立ち上げた背景には、業界の構造的な課題への問題意識があった。
メディアブリッジが提供するのは、データドリブンPRプラットフォームという独自のサービスだ。メディアの報道傾向、記者の関心領域、過去のプレスリリースの露出実績など、膨大なデータを機械学習で分析。最適なタイミングで、最適なメディアに、最適な切り口で情報を届ける仕組みを構築している。
「PRの世界では『メディアとの関係性』が重視されますが、それを定量化する試みはほとんどありませんでした。私たちはメディアリレーションスコアという独自指標を開発し、約3,000媒体、8,000名以上の記者データベースと紐づけることで、PR活動の成果予測を可能にしています」
創業から4年で、クライアント企業数は120社を突破。スタートアップから上場企業まで幅広く支援し、平均的なメディア露出率は従来手法の2.3倍という実績を上げている。
「伝わらない」を科学的に解決する
西川氏がPR領域に注目したきっかけは、広告代理店時代のある経験にあった。「優れた商品やサービスを持つ企業が、情報発信の不備で正当に評価されない場面を何度も見てきました。特にスタートアップや中小企業では、広報に十分なリソースを割けないケースが多い」
従来のPR会社は、月額数十万円からの顧問契約が主流で、予算的に利用できない企業も多かった。メディアブリッジでは、プロジェクト型とサブスクリプション型の2つのモデルを用意。月額15万円から利用できるエントリープランを設けることで、成長フェーズの企業でもデータドリブンなPR戦略を実践できる環境を整えた。
「私たちのプラットフォームでは、プレスリリースの作成支援から配信、効果測定まで一気通貫で対応します。AIが過去の成功パターンから最適な見出しや構成を提案し、配信後はリーチ数、エンゲージメント率、記事化率などを可視化。PDCAサイクルを高速で回せることが最大の強みです」
データはあくまでツール。最終的には「人の心を動かすストーリー」が必要です。テクノロジーと人間の感性、両方の掛け算でしか、本当に伝わるコミュニケーションは実現できません。
西川 亮介
実際、同社のコンサルタントは全員が元記者やPRプロフェッショナル。データ分析の知見とメディア実務経験を併せ持つハイブリッド人材を育成することに注力している。
広報DXの波に乗る――コロナ禍が加速させた変化
2020年以降、新型コロナウイルスの影響でメディア環境は大きく変化した。記者会見のオンライン化、取材の非対面化が進み、企業とメディアの接点が急速にデジタルシフトした。この変化は、メディアブリッジにとって追い風となった。
「対面でのリレーション構築が難しくなった分、情報の質と届け方がより重要になりました。記者の方々は膨大な情報に日々さらされており、本当に価値のあるニュースを的確に届けるニーズが高まっています」
2021年には、オンライン記者会見の企画・運営サービスを開始。配信プラットフォームの提供だけでなく、視聴データの解析、質疑応答の最適化提案なども行う。すでに80社以上がこのサービスを利用し、平均参加記者数は従来のリアル会見の1.8倍に増加したという。
また、2022年にはメディアモニタリングAIを実装。自社や競合他社に関する報道を自動収集・分析し、トレンドの変化や報道トーンをリアルタイムで把握できる仕組みを構築した。「危機管理広報の観点でも、早期発見・早期対応が可能になります。炎上リスクの予兆を検知するアラート機能も好評です」
次世代のPRプロフェッショナルを育てる
メディアブリッジでは、業界全体の底上げも重要なミッションと位置づけている。2023年春には、PRアカデミーという教育プログラムを開講。広報担当者向けに、戦略立案からメディアリレーション、危機管理まで体系的に学べるカリキュラムを提供している。
「日本企業の広報部門は、まだまだ『プレスリリースを出す部署』という認識にとどまっているケースが多い。本来、広報は経営戦略の中核を担うべき機能です。そのための人材育成が急務だと考えています」
プログラムには既に250名以上が参加し、修了生の中からは社内広報体制を刷新したり、IR機能を統合したりする動きも生まれている。「受講生同士のネットワークも財産になっています。業種を超えた情報交換の場として機能していることも嬉しい成果です」
今後の展望について、西川氏はこう語る。「短期的には、AIによる多言語対応を強化し、グローバルPR領域に進出します。日本企業の海外発信支援、逆に海外企業の日本市場参入時のPR支援など、双方向のニーズがあります」
さらに中長期的には、インフルエンサーマーケティングとPRの融合も視野に入れる。「メディアだけでなく、SNS上の影響力を持つ個人とのリレーションも、今後のPR戦略には不可欠。そこにもデータサイエンスの知見を活かせると考えています」
最後に、PR業界を目指す若手へのメッセージを聞いた。「この仕事の本質は『価値を正しく伝える』こと。企業の想いと、社会のニーズの接点を見つけ、ストーリーとして紡ぐ。そこにテクノロジーという武器が加われば、もっと多くの企業を支援できる。一緒に業界の未来を創りましょう」
データとクリエイティブの融合――メディアブリッジが切り拓く新しいPRの形は、情報過多の時代において、ますます重要性を増していくだろう。