地方スーパーが直面した生き残りをかけた選択
広島県を中心に中国・四国地方で42店舗を展開する株式会社フレッシュマート西日本。1978年の創業以来、地域に根ざした食品スーパーとして親しまれてきた同社だが、2019年頃から大手チェーンの進出やネットスーパーの台頭により、既存店売上高は前年比マイナス3〜5%で推移していた。「このままでは10年後、会社は存続できない」—そう危機感を抱いた森本健太郎社長は、2020年4月に就任すると同時に、抜本的な事業改革に着手した。
森本社長が最初に取り組んだのは、顧客データの可視化だった。「当社には25万人の会員がいましたが、購買データをほとんど活用できていませんでした。誰が何を買っているのか、リピート率はどうなのか。そういった基本的な数字すら把握できていなかったんです」と振り返る。まずPOSシステムを刷新し、CRMプラットフォームを導入。会員の購買行動を分析できる体制を整えた。
データ分析から見えてきたのは、60代以上の顧客層が全体の47%を占める一方で、30〜40代のファミリー層の来店頻度が年々低下している実態だった。「若い世代は確実にオンラインシフトしている。でも、地方には大手のネットスーパーが十分にサービスを提供できていないエリアも多い。ここにチャンスがあると考えました」
MFCとダークストアで実現した「30分配送」
2021年3月、同社は広島市内の既存店舗の一部を改装し、マイクロフルフィルメントセンター(MFC)を併設した実験店舗をオープンさせた。MFCとは、EC注文に特化した小型の物流拠点のこと。店舗の2階スペース約200坪を活用し、自動ピッキングシステムと冷蔵・冷凍設備を導入した。
「初期投資は1拠点あたり約8,000万円。正直、社内からは反対の声も多かったです」と森本社長。しかし、テスト運用を開始すると、想定を上回る反響があった。半径3km圏内を対象とした「30分配送サービス」は、特に共働き世帯から高い支持を獲得。初月の注文件数は目標の1.5倍となる4,200件を記録した。
さらに2022年には、来店客のいないダークストアを岡山市と松山市に展開。通常の店舗運営コストを抑えながら、EC専用の配送拠点として機能させることで、配送エリアを拡大した。現在、EC経由の売上は全体の18%まで成長し、EC部門単体の営業利益率は12%と、実店舗の8%を上回る収益性を実現している。
地方の食品スーパーにとって、大手と同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。私たちは地域の特性を理解し、きめ細かなサービスを提供できることが最大の強みです。テクノロジーはそれを拡張するための手段に過ぎません。
森本健太郎社長
OMO戦略で実店舗とECの相乗効果を創出
同社の特徴は、単なるネットスーパー展開にとどまらず、OMO(Online Merges with Offline)戦略を徹底している点だ。専用アプリでは、店舗とECの両方で使える共通ポイントを導入。さらに、店舗での購買履歴をもとにしたパーソナライズされたクーポンをアプリ経由で配信することで、実店舗への来店も促進している。
2022年度の分析では、アプリを利用している顧客の年間購買額は、非利用者と比較して平均2.3倍。実店舗とECの両方を利用する顧客は、全体の27%だが、売上貢献度は51%に達している。「オンラインとオフラインは対立するものではなく、補完関係にある」と森本社長は強調する。
また、店舗では「クリック&コレクト」サービスも展開。オンラインで注文した商品を店舗で受け取れる仕組みで、配送料を節約したい顧客や、ついで買いをしたい顧客に好評だ。現在、EC注文の34%がクリック&コレクト経由となっており、その8割の顧客が受け取り時に追加で商品を購入している。客単価は通常のEC注文より28%高い。
サステナビリティとローカルブランディングで差別化
デジタル化と並行して、同社が注力しているのがサステナビリティ経営だ。2023年には、規格外野菜や賞味期限間近の商品を割引価格で販売する「もったいないコーナー」を全店舗に設置。食品ロス削減に取り組むと同時に、価格重視の顧客層にもアピールしている。年間の食品廃棄量は前年比23%削減を達成した。
さらに、地元生産者と連携した産直コーナーの拡充にも力を入れる。現在、約180の農家・漁師と直接契約し、店舗とECの両方で地元食材を販売。「生産者の顔が見える」商品は、特に健康志向の高い顧客層から支持され、粗利率も通常商品より5ポイント高い。
「地方スーパーの存在意義は、地域経済の循環を生み出すこと。私たちが地元の生産者から仕入れ、地域の雇用を創出し、お客様に価値を提供する。このサイクルを持続可能なものにすることが経営者の責務です」と森本社長は語る。
従業員教育にも投資を惜しまない。デジタルツールの活用研修に年間1,200万円を投じ、パート・アルバイトを含む全従業員がタブレット端末を使いこなせる体制を整えた。結果、従業員満足度は向上し、離職率は業界平均の18%に対し、同社は11%に抑えられている。
2023年度の業績は、売上高が前年比31%増の248億円、経常利益は前年比47%増の12.3億円と大幅な成長を達成。既存店売上高も前年比8%増と、V字回復を果たした。森本社長は「2025年度までに売上高300億円、店舗数50店舗、EC比率25%を目指す」と今後の目標を掲げる。地方から始まった小売DXの挑戦は、業界全体に新たな可能性を示している。