量子暗号通信の社会実装へ──QuantumSecure久保田CEOが語る次世代セキュリティ戦略
IT・テクノロジー

量子暗号通信の社会実装へ──QuantumSecure久保田CEOが語る次世代セキュリティ戦略

量子コンピュータ時代に備える、日本発の暗号技術で世界を守る

株式会社QuantumSecure

久保田 陽介
代表取締役CEO 久保田 陽介 株式会社QuantumSecure

2020年創業、量子暗号通信技術の開発・実装で注目を集める株式会社QuantumSecure。従来の暗号が破られる「Xデー」を見据え、金融・医療・インフラ分野での導入を加速させる久保田陽介CEOに、技術開発の現場と事業戦略を聞いた。

量子暗号通信が必要とされる背景

編集部
まず、量子暗号通信とは何か、そしてなぜ今この技術が必要とされているのか教えてください。
久保田CEO
量子暗号通信は、量子力学の原理を利用した理論上絶対に盗聴不可能な通信技術です。現在私たちが使っているRSA暗号などの公開鍵暗号は、計算の複雑さに依存していますが、量子コンピュータが実用化されれば数時間で解読される可能性があります。GoogleやIBMの量子コンピュータ開発が急速に進む中、金融取引や医療データ、国家機密など、絶対に漏洩させてはならない情報を守る新しい技術が必要なんです。私たちはその「Xデー」が2030年前後に来ると予測しています。
編集部
2030年というと、もう目前ですね。既存の暗号が破られるリスクについて、企業や組織の認識はどの程度でしょうか。
久保田CEO
正直に言うと、まだまだ危機感が薄いのが現状です。ただ、金融庁や経済産業省は「ポスト量子暗号」への対応を急いでおり、大手金融機関では既に対策プロジェクトが動き始めています。特に深刻なのが「Store Now, Decrypt Later攻撃」と呼ばれるもので、今暗号化されたデータを盗んでおいて、将来量子コンピュータで解読するという手法です。つまり、今日のデータが10年後に漏洩するリスクがあるということ。この認識が広まれば、対策は一気に加速すると見ています。
編集部
QuantumSecureの技術的な強みはどこにあるのでしょうか。
久保田CEO
私たちの強みは二つあります。一つは既存の光ファイバーインフラで動作する量子鍵配送(QKD)システムを開発したこと。従来の量子暗号は専用回線が必要でコストが莫大でしたが、私たちの技術なら既存インフラを活用できます。もう一つは、東京大学との共同研究から生まれた独自の誤り訂正技術で、通信距離を従来の2倍以上に延ばすことに成功しました。これにより、東京-大阪間のような長距離通信も現実的になってきています。

今日のデータが10年後に漏洩するリスク──この認識が広まれば、対策は一気に加速する

── 久保田CEO

事業展開と市場戦略

編集部
現在、どのような業界・企業との取り組みが進んでいますか。
久保田CEO
現在、三大メガバンクのうち二行、大手証券会社三社、そして国内最大手の電子カルテ企業と実証実験を進めています。金融機関では国際送金や証券取引の暗号化、医療分野では病院間での患者データ共有に使われる想定です。また、経済産業省の「量子・AI技術の社会実装プロジェクト」にも採択され、電力・ガスなどの重要インフラ分野での実装も視野に入れています。2024年度は実証から商用フェーズに移行する企業が出てくる見込みです。
編集部
海外展開についてはどう考えていますか。特に米国や中国との競争環境について教えてください。
久保田CEO
量子暗号は完全に国際競争の領域です。中国は既に北京-上海間2000kmの量子通信ネットワークを構築していますし、米国もNISTが新しい暗号標準を策定中です。ただ、日本には精密な光学技術と半導体製造技術という強みがあるんです。私たちは浜松ホトニクスやNTTとも連携していて、小型化・低コスト化では世界をリードしています。海外展開は、まず東南アジアの金融ハブであるシンガポールを足がかりに、ASEAN市場を攻める戦略です。欧州については、現地パートナーとの提携交渉を進めています。
編集部
ビジネスモデルとしては、どのような収益構造を考えていますか。
久保田CEO
現在は「機器販売」「保守サービス」「ライセンス」の三本柱です。量子鍵配送装置本体の販売に加え、定期的なキャリブレーションや監視サービスで継続収益を得ます。さらに、私たちが持つ誤り訂正アルゴリズムや鍵管理システムのライセンス供与も始めています。将来的には「Quantum Security as a Service」として、クラウド型のセキュリティサービスも展開したい。初期投資を抑えたいスタートアップや中堅企業にとって、月額課金で量子暗号が使えるなら魅力的だと思います。
編集部
競合他社との差別化ポイントは何でしょうか。
久保田CEO
技術的な優位性に加えて、「実装力」が最大の差別化要因だと考えています。量子暗号の研究をしている企業や大学は世界中にありますが、実際に商用システムとして動かせるところは限られています。私たちのチームには、NTTやNEC出身の通信インフラのプロフェッショナルが多数いて、既存システムとの統合ノウハウを持っています。お客様の既存セキュリティシステムを止めずに、段階的に量子暗号に移行できる──これが評価されています。

技術的優位性だけでなく「実装力」が最大の差別化要因。既存システムを止めずに移行できることが評価されている

── 久保田CEO

組織づくりと今後のビジョン

編集部
創業から約4年、組織はどのように成長してきましたか。
久保田CEO
創業時は私を含めて5人、全員が博士号を持つ研究者でした。現在は68名まで増え、エンジニアが約40名、営業・ビジネス開発が15名、管理部門が13名という体制です。特に意識しているのは「研究開発と事業化のバランス」です。deep techのスタートアップは技術偏重になりがちですが、私たちは初期からビジネス開発の専門家を採用し、顧客との対話を重視してきました。技術を社会実装するには、顧客の業務フローや規制要件を深く理解する必要がありますから。
編集部
採用において重視していることは何ですか。
久保田CEO
専門性はもちろんですが、「未踏の領域を楽しめるマインド」を最も重視しています。量子暗号という分野は、まだ教科書もベストプラクティスもありません。だからこそ、自分で考え、試行錯誤を楽しめる人が向いています。最近は、大手IT企業や通信キャリアから「新しい挑戦がしたい」と転職してくる30代のエンジニアが増えています。彼らは安定した環境を離れてでも、世界を変える技術に携わりたいという熱意を持っているんです。
編集部
資金調達の状況と、今後の成長戦略について教えてください。
久保田CEO
これまでに累計35億円を調達しました。主な投資家は、INCJ、みずほキャピタル、そしてシリコンバレーのDeep Tech系VCです。今年後半にはシリーズBで50億円規模の調達を予定しており、これを生産体制の拡充と海外拠点の設立に充てます。具体的には、自社工場の設立と、シンガポール・ロンドンへの営業拠点開設です。2027年のIPOを目標に、売上100億円、海外比率50%という体制を目指しています。
編集部
最後に、久保田さんが描く10年後のビジョンを聞かせてください。
久保田CEO
10年後、量子暗号通信は「あって当たり前」のインフラになっていると思います。今日、私たちがHTTPSを意識せずに使っているように、量子暗号も自然に生活の中に溶け込んでいる。金融取引も、医療データも、個人のプライバシーも、量子暗号で守られている世界です。そして、QuantumSecureがその基盤技術を提供するグローバルスタンダード企業になっている──それが私のビジョンです。日本発の技術で、世界中の人々のデジタル社会を守る。これ以上にエキサイティングな挑戦はないと思っています。

10年後、量子暗号通信は「あって当たり前」のインフラに。日本発の技術で世界を守る

── 久保田CEO
📝 まとめ
・量子コンピュータ時代の到来(2030年予測)に備え、理論上破られない量子暗号通信技術を開発・実装
・既存の光ファイバーインフラで動作するQKDシステムと独自の誤り訂正技術で、長距離通信を実現
・三大メガバンク・大手証券・医療分野で実証実験を進め、2024年度から商用フェーズへ移行
・研究開発と事業化のバランスを重視し、68名体制で国内外の市場開拓を加速。2027年IPO、売上100億円を目指す

🏢企業情報

会社名 株式会社QuantumSecure
業種 IT・テクノロジー
役職 代表取締役CEO
代表者 久保田 陽介
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