アパレル廃棄問題への危機感が創業のきっかけ
東京・渋谷のオフィスで迎えてくれた山崎恵理社長は、柔和な笑顔の中にも強い信念を感じさせる経営者だった。前職では大手アパレル企業でMDとして10年以上のキャリアを積んできた山崎氏が独立を決意したのは、業界の大量生産・大量廃棄という構造的問題への危機感からだった。
「毎シーズン、売れ残った商品が大量に廃棄される現場を見続けて、これは持続可能なビジネスではないと痛感しました。日本国内だけでも年間約50万トンの衣類が廃棄されています。私たちの世代が変えなければ、次世代に引き継げる産業にはならないと思ったんです」
2019年に設立した株式会社グリーンスレッドは、リサイクルポリエステルや再生ナイロンなど、環境負荷の低い素材のみを使用したアパレルブランドを展開。創業初年度の売上高は8000万円だったが、2023年度には20億円を突破。従業員数も創業時の5名から現在は68名まで拡大している。
テクノロジーで実現する「適量生産」の仕組み
グリーンスレッドの最大の特徴は、デマンド・ドリブン生産システムと呼ばれる独自の生産管理手法にある。従来のアパレル業界では、シーズンの半年前に生産量を決定し、見込み生産を行うのが一般的だった。しかし、この方式では需要予測が外れると大量の在庫を抱えることになる。
「私たちはAIによる需要予測と小ロット多頻度生産を組み合わせることで、廃棄率を業界平均の15%から3%以下に抑えています。ECサイトでの閲覧データやSNSでのエンゲージメント率、さらには気象データまで取り込んで、2週間先の需要を高精度で予測するんです」
この仕組みを実現するため、国内の協力工場とはクイックレスポンス体制を構築。通常4〜6ヶ月かかるリードタイムを、企画から店頭投入まで最短3週間に短縮した。OEM先の選定では、小ロット対応が可能で環境認証を取得している工場のみと取引している。
「初期は工場探しに苦労しました。最小ロット1000枚という条件では対応できないと断られることも多かったです。でも、私たちのビジョンに共感してくれる職人さんたちと出会えて、今では15社の協力工場ネットワークができています」
サステナブル素材の調達と品質へのこだわり
同社の商品に使用される素材は、100%が環境配慮型だ。主力商品のTシャツにはGRS認証(Global Recycle Standard)を取得したリサイクルコットンを使用。デニムラインには廃漁網から作られた再生ナイロン「ECONYL」を採用している。
「サステナブル素材というと、品質が劣るイメージを持たれがちですが、それは誤解です。私たちは物性試験を徹底的に行い、耐久性・発色性・風合いすべてにおいて、バージン素材と同等以上の品質を確保しています」
素材調達では、イタリアや台湾の先進的なテキスタイルメーカーとの直接取引を実現。中間マージンを省くことで、環境配慮型素材でありながら粗利率43%という高収益体質を確立した。一般的なアパレル企業の粗利率が35〜40%であることを考えると、驚異的な数字だ。
お客様は「環境に良いから」という理由だけでは商品を買い続けてくれません。デザイン、着心地、価格、すべてが満足できて初めてリピートが生まれる。サステナビリティは前提条件であって、差別化要因ではないんです。
山崎恵理
実際、同社のリピート購入率は58%に達しており、業界平均の30〜35%を大きく上回っている。
オムニチャネル戦略と今後の展開
販売チャネルは、自社ECサイトが売上の65%を占め、残り35%が直営店舗とセレクトショップへの卸だ。ECサイトでは3D試着システムを導入し、返品率を8%まで低減させている。
「アパレルECの最大の課題は返品です。環境負荷を減らすためにも、最初から適切なサイズを選んでもらえる仕組みが必要でした。お客様の身長・体重・体型情報を入力すると、AIが最適なサイズを提案するシステムを開発し、返品率を従来の23%から8%に下げることができました」
直営店舗は現在、東京・大阪・福岡の3店舗。今期中にさらに2店舗の出店を予定している。店舗では単なる販売スペースではなく、サーキュラーエコノミーの体験拠点として位置づけている。
「店舗では『服の下取りプログラム』を実施しています。ブランド問わず不要になった衣類を持ち込んでいただくと、次回購入時に使える10%OFFクーポンを発行。回収した衣類は素材ごとに分別し、リサイクル原料として再び商品化します。すでに累計12トンの衣類を回収しました」
海外展開も視野に入れている。2024年中には越境ECで台湾・韓国市場に参入予定だ。「アジア市場では環境意識の高いミレニアル世代・Z世代が購買層の中心になっています。私たちのブランドフィロソフィーは必ず受け入れられると確信しています」
人材採用にも力を入れており、今期は新卒5名、中途採用15名を計画。特にデジタルマーケティングとサプライチェーンマネジメントの専門人材を積極的に採用している。
「ファッション業界は今、100年に一度の転換期にあります。気候変動やサステナビリティは、もはや選択肢ではなく必須課題。私たちのような中小企業こそ、機動力を活かして業界の変革をリードできると信じています。5年後には年商100億円、そして業界のロールモデルになることが目標です」
山崎社長の言葉からは、ファッション業界の未来を切り拓く強い意志が伝わってきた。利益追求と社会課題解決を両立させる――グリーンスレッドの挑戦は、まだ始まったばかりだ。