縫製業界のDXを推進するプラットフォーム戦略
国内アパレル産業において、縫製工場の高齢化と技術継承の問題は深刻さを増している。そんな中、縫製工場とアパレルメーカーをつなぐデジタルプラットフォーム「SeamConnect」を開発し、業界のDXを推進しているのが株式会社テクスチャーワークスだ。創業5年目を迎える同社は、現在全国210箇所の縫製工場とネットワークを構築し、月間の生産管理取引額は約4.5億円に達している。
「縫製業界は長年、アナログな商習慣が根強く残っていました。発注はFAXや電話、サンプルは現物を郵送、進捗確認も電話ベース。これではリードタイムの短縮も生産性向上も実現できません」と井上社長は語る。同社のプラットフォームは、パターンデータの共有からCAD連携、裁断指示、縫製進捗管理、品質検査まで一気通貫でデジタル化。従来平均45日かかっていた生産リードタイムを28日まで短縮することに成功している。
さらに注目すべきは、3Dシミュレーション技術との連携だ。デザイナーが作成した3Dデータから直接パターンを展開し、生地の使用量やコストを自動算出。サンプル製作前に仕上がりイメージを確認できるため、サンプル製作回数が平均3.2回から1.5回に削減され、開発コストは約40%低減している。
技能のデジタル化で職人技術を次世代へ
テクスチャーワークスのもう一つの柱が、縫製技能のデジタルアーカイブ化だ。ベテラン職人の手の動き、針の運び方、生地の扱い方などを高精細カメラとセンサーで記録し、AIで解析。これを教育コンテンツ化することで、熟練技能の継承を支援している。
「例えば、高級スーツの襟付けには独特の技法があります。生地の引き加減、縫い代の倒し方、アイロンワークのタイミング。これらは言葉では伝えきれない職人の勘と経験です」と井上社長。同社が開発した「SkillBank」システムでは、こうした暗黙知をデジタル化し、VRゴーグルを使った疑似体験学習を可能にした。導入工場では、新人の一人前までの期間が従来の24ヶ月から14ヶ月に短縮されたという。
現在、国内の縫製技能士の平均年齢は62歳を超えており、技術継承は待ったなしの状況だ。同社はすでに150名以上の熟練職人の技能をアーカイブし、ジャケット製作、パンツ製作、シャツ製作など計47の技能パッケージをライブラリ化している。
サステナビリティ経営と残反活用の新ビジネス
アパレル業界における廃棄ロス問題にも、テクスチャーワークスは独自のソリューションで挑んでいる。2023年4月にローンチした「FabricStock」は、縫製工場に眠る残反(残った生地)を可視化し、マッチングするプラットフォームだ。
「国内の縫製工場には推定で年間約8,200トンの残反が発生しています。多くは廃棄されるか、倉庫で眠ったまま。一方で、小ロット生産をしたいデザイナーやブランドは常に生地を探しています」。このミスマッチを解消するため、FabricStockでは残反をデータベース化。生地の種類、色、残量、場所などを登録し、検索可能にした。登録工場数は現在83箇所、登録生地点数は12,000点を超える。
実際に、都内のD2Cブランドが高級ウール生地の残反30メートルを活用し、限定コレクションを展開。通常の50%のコストで製品化に成功した事例もある。サーキュラーエコノミーの観点からも、残反活用は今後の重要テーマだと井上社長は強調する。
デジタル技術は効率化のためだけではありません。日本の縫製技術という文化遺産を次世代に継承し、持続可能なものづくりを実現するための手段なのです。
井上雄一郎社長
グローバル展開と今後の成長戦略
国内市場での基盤確立を受け、テクスチャーワークスは2024年からアジア市場への展開を本格化させている。まずはベトナムとバングラデシュで現地縫製工場との提携を開始。グローバルサプライチェーンの可視化と最適化を目指す。
「日本の強みは品質管理ノウハウとデジタル技術の融合です。これをアジアの生産キャパシティと組み合わせることで、新しいものづくりのエコシステムを構築できます」。すでにベトナムの大手縫製工場3社と提携し、SeamConnectの現地語版を導入。日本のアパレルブランドがアジア工場に直接発注できる体制を整えつつある。
また、2024年度中にはAI自動見積もり機能のリリースを予定している。デザイン画像をアップロードするだけで、必要な工程、使用生地量、縫製難易度をAIが判定し、複数工場から見積もりを自動取得。発注までのリードタイムを現在の平均7日から即日に短縮する計画だ。
資金面では、2024年3月にシリーズBラウンドで15億円の資金調達を完了。これを原資にエンジニアを現在の42名から80名体制に拡充し、プラットフォームの機能強化とグローバル展開を加速させる。井上社長は「2027年までに国内シェア30%、海外展開10カ国を目標にしています。縫製業界のデファクトスタンダードを確立したい」と意気込みを語る。
ものづくりの未来を創る人材育成への想い
最後に井上社長が力を入れているのが、若手人材の育成と業界イメージの刷新だ。「縫製業界は3K(きつい、汚い、危険)のイメージがあり、若者が集まりにくい。でも実際は、高度な技術と創造性が求められるクリエイティブな仕事です」。
同社では、服飾専門学校との産学連携プログラムを展開。学生がSeamConnectを使った実践的な生産管理を学べるカリキュラムを提供している。参加学生からは「デジタルツールを使えば、デザインと生産の両方に関われることが分かった」といった声が上がり、縫製業界への就職希望者が増加傾向にあるという。
「ファッションテックという言葉が示すように、アパレル産業はテクノロジーとの融合で大きく変わろうとしています。私たちは単なるツール提供者ではなく、業界全体のトランスフォーメーションパートナーでありたい」と井上社長。デジタル技術で日本のものづくりを次のステージへ導く同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。