銀行融資の壁を越える、新しい与信評価プラットフォーム
「日本には約360万社の中小企業が存在しますが、そのうち年商1億円未満の事業者の多くは、銀行融資のハードルの高さに悩んでいます」。株式会社クレディブリッジの桐山雄介CEOは、日本の中小企業金融が抱える構造的な課題をこう指摘する。同社は2019年の創業以来、オープンバンキングAPIと独自開発のAIスコアリングエンジンを組み合わせた与信審査プラットフォーム「CrediFlow」を展開し、従来の金融機関では対応しきれなかった小規模事業者への資金供給を実現している。
桐山CEOは大手メガバンクで10年間、法人融資部門に従事した後、シリコンバレーのフィンテック企業でオルタナティブデータを活用した与信モデルの開発に携わった経験を持つ。「銀行時代、決算書の数字だけでは測れない事業の将来性を持つ企業が、融資を受けられないケースを数多く見てきました。テクノロジーでこの問題を解決したいと考えたのが起業のきっかけです」と創業の経緯を語る。
CrediFlowの最大の特徴は、入出金データ、ECプラットフォームの売上データ、会計ソフトの取引履歴など、複数のデータソースをリアルタイムで統合し、わずか30分で与信判断を行える点だ。現在、提携金融機関は地方銀行を中心に23行、累計融資実行額は185億円を突破している。
月間キャッシュフローを可視化する独自アルゴリズム
CrediFlowの核となるのは、桐山CEOが「Dynamic Cash Flow Scoring」と名付けた独自の与信アルゴリズムだ。従来の財務諸表ベースの審査では、決算書の提出から融資実行まで平均2〜3週間を要し、かつ直近の事業状況を反映できないという課題があった。
「私たちのモデルは、銀行口座の入出金データを最大24ヶ月分解析し、季節変動やトレンドを加味した将来キャッシュフローを予測します。さらに、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフト、Amazon、楽天市場などのEC売上データ、決済代行会社のトランザクションデータなど、最大15種類のデータソースを統合することで、より精緻な信用評価を実現しています」と桐山CEOは説明する。
このアルゴリズムの開発には、機械学習エンジニア12名からなる社内チームが2年半を費やした。学習データには、提携金融機関から提供された過去10年分、約8万社の融資データと返済実績を使用。デフォルト率の予測精度は92.3%に達し、従来のスコアリングモデルと比較して15ポイント以上の改善を実現している。
また、2023年4月からは請求書データの分析機能も追加した。「BtoB取引では請求書が将来の入金を示す重要な指標です。請求書の発行パターン、取引先の分散度、入金サイトなどを分析することで、より多角的な与信判断が可能になりました」。この機能追加により、審査通過率は従来の67%から78%へと向上している。
地方銀行との協業で実現する金融包摂
クレディブリッジのビジネスモデルで特徴的なのは、自社で融資を行うのではなく、地方銀行に与信審査プラットフォームを提供するBtoB型SaaSの形態を採用している点だ。「私たちは銀行の競合ではなく、パートナーです。地方銀行が持つ預金原資と金融ライセンス、そして私たちが持つテクノロジーを組み合わせることで、双方にメリットがあるエコシステムを構築しています」と桐山CEOは強調する。
地方銀行にとっては、人口減少と低金利環境により、従来の融資ビジネスモデルの維持が困難になっている。一方で、小規模事業者への融資は審査コストが高く、採算が取れないという課題があった。CrediFlowを導入することで、審査にかかる人的コストを約70%削減でき、これまでリーチできなかった顧客層への融資が可能になる。
「長野県に本店を置くある地方銀行では、CrediFlow導入後、年商3000万円未満の事業者向け融資が前年比で4.2倍に増加しました。審査担当者は定型的な作業から解放され、より付加価値の高いコンサルティング業務にシフトできています」。現在、CrediFlowを導入した金融機関での平均的な融資実行額は1件あたり850万円、金利は年率3.8〜8.5%のレンジで設定されている。
クレディブリッジの収益モデルは、月額のSaaS利用料と融資実行時の成功報酬の組み合わせだ。2023年度の売上高は前年比280%増の12億円を達成し、2024年度は25億円を見込んでいる。
エンベデッドファイナンスへの展開と今後のビジョン
桐山CEOが次に見据えているのは、エンベデッドファイナンス(組み込み型金融)の領域だ。2024年2月、クレディブリッジはクラウド会計ソフト大手との戦略的提携を発表し、会計ソフト上で直接融資申し込みができる機能の提供を開始した。
「事業者が日常的に使うプラットフォーム上で、必要なタイミングで資金調達ができる世界を実現したい。会計ソフトで資金繰りが厳しいことに気づいた瞬間に、ワンクリックで融資申し込みができ、数時間後には資金が振り込まれる。これが私たちの目指す金融の民主化です」と桐山CEOは展望を語る。
また、2024年後半には売掛債権ファクタリング機能のリリースも予定している。「融資だけでなく、ファクタリング、後払い決済、リースなど、事業者が必要とする様々な資金調達手段を一つのプラットフォームで提供したい。データ基盤は共通ですから、複数の金融商品への展開は自然な流れです」。
海外展開も視野に入れている。「アジア新興国には、日本以上に金融包摂の課題を抱える国が多数あります。特に東南アジアでは、デジタル決済の普及によりデータインフラが整ってきており、私たちのモデルが機能する土壌があります。2025年にはシンガポールに拠点を設立し、ASEAN市場への展開を本格化させる計画です」。
桐山CEOは最後にこう締めくくった。「金融は本来、事業の成長を支えるインフラです。しかし日本では、必要な事業者に必要なタイミングで資金が届いていない。テクノロジーの力でこのギャップを埋め、すべての事業者が公平に金融サービスにアクセスできる社会を実現したい。それがクレディブリッジのミッションです」。同社の挑戦は、日本の中小企業金融に新しい風を吹き込み続けている。
金融は本来、事業の成長を支えるインフラです。テクノロジーの力で、すべての事業者が公平に金融サービスにアクセスできる社会を実現したい。
桐山雄介CEO