AIと医師の協働が描く未来──株式会社メディカルフロンティア 代表取締役社長 竹内 晴彦
医療・ヘルスケア

AIと医師の協働が描く未来──株式会社メディカルフロンティア 代表取締役社長 竹内 晴彦

病理診断の精度向上と医師不足解消を両立させる医療AIソリューション

株式会社メディカルフロンティア

竹内 晴彦
代表取締役社長 竹内 晴彦 株式会社メディカルフロンティア

病理診断医の不足が深刻化する中、AI画像診断システムで医療現場の課題に挑む竹内氏。全国80以上の医療機関での導入実績と、診断精度97.3%を誇る技術が医療の質を変える。

病理診断医不足という社会課題へのアプローチ

「日本の病理診断医は約2,600名。しかし年間の病理検体数は約2,000万件にも上ります」と竹内氏は静かに語り始めた。株式会社メディカルフロンティアは、AI病理診断支援システム「PathologyVision」を開発し、慢性的な病理診断医不足に悩む医療現場に革新をもたらしている企業だ。

竹内氏自身、大学病院で放射線科医として勤務していた経歴を持つ。「現場で働く中で、病理診断医の先生方が深夜まで顕微鏡を覗き続ける姿を何度も見てきました。一人の医師が1日に100件以上の検体を診断することも珍しくありません。この状況を放置すれば、診断遅延や見落としのリスクが高まり、患者さんの予後に直結します」。医療現場での実体験が、起業の原動力となった。

2018年の創業以来、同社はディープラーニング技術を活用した病理画像解析に特化してきた。現在では全国82の医療機関に導入され、月間約15万件の病理検体の診断支援を行っている。特に胃がん、大腸がん、乳がんの3領域では診断精度97.3%を達成し、偽陰性率を従来比で62%削減することに成功している。

医師とAIの理想的な協働関係を追求

「私たちはAIが医師に取って代わるとは一切考えていません」と竹内氏は強調する。「AIはあくまでも医師の診断を支援するツールであり、最終診断権は必ず医師が持つべきです。ただし、AIによるスクリーニングで明らかに正常な検体を優先度を下げて分類することで、医師は疑わしい検体により多くの時間を割くことができます」。

同社のシステムでは、ヒートマップ機能により、AIが異常と判断した領域を色分けして表示する。これにより病理診断医は注目すべき箇所を瞬時に把握でき、診断時間を平均37%短縮できたというデータもある。「あるクリニックでは、導入前は診断レポートの発行まで平均7.2日かかっていましたが、導入後は4.1日にまで短縮されました。患者さんの不安な待ち時間を減らすことにも貢献しています」。

また、地方の中小病院では常勤の病理診断医を確保できないケースも多い。そうした施設ではテレパソロジーと組み合わせることで、都市部の専門医がAIの支援を受けながら遠隔診断を行う体制を構築している。「医療の地域格差を解消することも、私たちの重要なミッションです」と竹内氏は語る。

規制との向き合い方と医療機器認証取得への道のり

医療AI開発において避けて通れないのが、薬機法に基づく医療機器としての承認プロセスだ。「2020年にプログラム医療機器としてクラスⅡの認証を取得するまでには、膨大な臨床データの収集と検証が必要でした」と竹内氏は振り返る。

認証取得にあたっては、多施設共同研究として6つの大学病院と12の総合病院と連携。合計12,847症例のデータセットを構築し、感度特異度陽性的中率陰性的中率のすべての指標で基準値をクリアした。「特に重要だったのは、多様性のあるデータセットの構築です。施設によって染色方法や撮影機器が異なるため、それらのバリエーションに対してもロバスト性を持つアルゴリズムを開発する必要がありました」。

また、リアルワールドデータの収集体制も整備した。システム導入後も継続的にデータを収集・解析し、アルゴリズムの改善に活用している。「医療AIは一度作って終わりではありません。継続的な学習と改善のサイクルを回すことで、より精度の高い診断支援が可能になります」。ただし、アルゴリズム更新時には再度PMDAへの届け出が必要となるため、更新頻度とのバランスを取ることが課題だという。

今後の展望──がんゲノム医療への挑戦

竹内氏が次に見据えるのは、がんゲノム医療との統合だ。「現在、病理診断は主に形態学的な評価が中心ですが、今後は遺伝子変異情報と組み合わせたコンパニオン診断が標準となっていきます」。同社は2024年から、次世代シーケンサー(NGS)データと病理画像を統合解析するシステムの開発を開始している。

「例えば、肺がんではEGFR変異ALK融合遺伝子の有無によって治療方針が大きく変わります。病理画像からこれらの遺伝子変異を予測できれば、より迅速に適切な分子標的薬の選択が可能になります」。すでに研究段階では、病理画像から主要な遺伝子変異を83%の精度で予測することに成功しているという。

また、海外展開も視野に入れている。「アジア諸国では日本以上に病理診断医が不足しています。特に東南アジア地域では、人口100万人あたりの病理診断医数が1〜2名という国も珍しくありません」。2025年にはシンガポールに東南アジア拠点を設立し、ASEAN医療機器指令(AMDD)に基づく認証取得を目指す計画だ。

さらに、病理診断以外の領域への展開も検討している。「内視鏡検査や放射線画像診断など、画像を扱う医療分野は数多くあります。私たちが培ってきた医療AI技術は、これらの領域にも応用可能です」。特に大腸内視鏡検査でのポリープ検出支援システムは、すでにプロトタイプが完成しており、2025年中の医療機器認証申請を予定している。

医療AIの真の価値は、医師の能力を拡張し、より多くの患者さんに質の高い医療を届けることにあります。技術開発だけでなく、医療現場との対話を続けながら、本当に求められるソリューションを提供していきたい。

竹内 晴彦

最後に竹内氏は、医療AI業界全体の発展についても言及した。「日本の医療AI企業は世界と比較してもまだ規模が小さく、資金調達環境も十分とは言えません。しかし、日本の医療データの質の高さや国民皆保険制度という基盤は大きな強みです。業界全体で協力しながら、日本発の医療AIを世界に発信していきたいと考えています」。医師としての使命感と起業家としての野心を併せ持つ竹内氏の挑戦は、これからも続いていく。

📝 まとめ
・病理診断医不足という社会課題に対し、AI病理診断支援システムで診断精度97.3%、偽陰性率62%削減を実現
・全国82医療機関に導入、月間15万件の診断支援により診断時間を平均37%短縮し、医師とAIの理想的な協働を追求
・薬機法に基づくプログラム医療機器としてクラスⅡ認証を取得、多施設共同研究で12,847症例のデータセットを構築
・がんゲノム医療との統合や東南アジア展開、内視鏡検査への応用など、医療AI技術の多角的な発展を目指す

🏢企業情報

会社名 株式会社メディカルフロンティア
業種 医療・ヘルスケア
役職 代表取締役社長
代表者 竹内 晴彦
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