「スタートアップの最初の仲間」として寄り添う投資スタイル
東京・渋谷のオフィスで私たちを迎えてくれた三田絵理氏は、笑顔で「スタートアップ投資は、恋愛に似ている」と語り始めた。株式会社SeedHub Venturesは、2021年設立のシード・プレシリーズA特化型ベンチャーキャピタルだ。ファンドサイズは第1号ファンドが30億円、現在組成中の2号ファンドは50億円規模を目指している。
「私たちは1社あたり3,000万円〜1億円のチケットサイズで投資します。でも、金額以上に大切なのは、起業家との関係性です」と三田氏。同社の特徴は、投資先に対する徹底したハンズオン支援にある。投資チーム5名に対し、支援専門チームを7名配置する体制は、VCとしては異例だ。
三田氏自身、大手事業会社で新規事業開発に携わった後、外資系VCを経て独立した経歴を持つ。「事業を創る苦しさも、投資判断の難しさも両方経験したからこそ、起業家が本当に必要とする支援が見えてくる」と振り返る。現在のポートフォリオは約40社で、SaaS、HR Tech、Climate Techの3領域に集中投資している。
「勝率8割」を実現する投資判断のメソッド
SeedHub Venturesの投資先企業のうち、約8割が次のラウンドでの資金調達に成功している。この数字は業界平均の5割程度を大きく上回る。その秘訣について、三田氏は「PMF(Product Market Fit)の手前で投資するという明確な基準」だと説明する。
「多くのVCは、ある程度トラクションが見えてから投資します。でも私たちは、まだプロダクトが完成していない段階、創業者のビジョンと初期仮説の解像度で判断する。だからこそ、その後の伴走が不可欠なんです」
投資判断では、TAM(Total Addressable Market)が最低でも1,000億円以上あること、創業者が課題に対して「当事者性」を持っていることを重視する。「数字のエクセルシートよりも、なぜその事業をやるのか、という物語を聞きます。シードでは情熱と論理性の両立が見極めポイントです」
実際の投資プロセスは、初回面談から投資実行まで平均6週間。デューデリジェンスでは、市場調査、競合分析に加え、創業者の過去の同僚や上司へのリファレンスチェックを必ず行う。「人物評価に時間をかけます。ピボットは前提ですが、創業者は変えられませんから」と三田氏は強調する。
シード投資は確率論ではなく、一社一社と真剣に向き合う覚悟の勝負。だからこそ、年間の投資社数は10〜15社に絞り込んでいます。
三田 絵理
投資後支援——「グロースハブ」プログラムの全貌
SeedHub Venturesの真骨頂は、投資後の支援体制にある。同社が独自に開発した「グロースハブ」と呼ばれるプログラムでは、投資先企業に対して、資金繰り管理、採用支援、PR戦略、次回ラウンドの準備まで、フルスタックな支援を提供する。
「特に力を入れているのがタレント採用支援です」と三田氏。同社は、大手IT企業やコンサルティングファーム出身者など、約2,000名の候補者データベースを構築。ポジションごとに最適な人材を紹介し、面接のフィードバックまで行う。「シード期のスタートアップにとって、創業メンバーの次の1人が事業の成否を分けます」
また、月次での1on1ミーティングも特徴的だ。数字のレビューだけでなく、創業者のメンタルケアも重視する。「資金調達後の孤独感、競合出現の不安、共同創業者との軋轢……スタートアップCEOの悩みは尽きません。私たちは単なる投資家ではなく、最初の仲間でありたい」
さらに、年2回開催されるポートフォリオサミットでは、投資先同士の横のつながりを創出。「セールスノウハウの共有、相互送客、共同開発など、エコシステム内でのシナジーが生まれています」と三田氏は目を輝かせる。実際に、ポートフォリオ企業同士のビジネスマッチングは累計で30件以上成立している。
日本のVC業界が抱える課題と未来への展望
日本のVC市場は拡大傾向にあるものの、米国と比較すると依然として規模が小さい。三田氏は「日本にはリスクマネーの総量不足と、エグジット環境の未成熟さという2つの構造的課題がある」と指摘する。
「特にシード・アーリー領域では、海外VCの資金が入りにくい。結果として、優秀な起業家が初期に十分な資金を得られず、成長スピードが遅れる。また、IPO偏重の市場では、M&Aという選択肢が育ちにくい」
一方で、近年は変化の兆しも見える。CVCの活発化、個人投資家層の拡大、政府のスタートアップ支援策などにより、エコシステム全体が成熟しつつある。「2024年はスタートアップ育成5か年計画の3年目。ようやく成果が見え始める時期です」と三田氏は期待を寄せる。
SeedHub Ventures自体も、今後は東南アジア市場への投資を視野に入れる。「日本で成功したビジネスモデルを、ASEAN諸国に展開する。逆に、現地の起業家と日本企業を繋ぐ橋渡し役にもなりたい。クロスボーダーのシード投資には大きな可能性があります」
最後に、これから起業を考える人へのメッセージを聞いた。「完璧な事業計画は要りません。でも、解くべき課題への強い想いと、実行し続ける覚悟は必要です。そして、信頼できるVCを早めに見つけてください。スタートアップは孤独な戦いではない。私たちのような仲間がいます」
日本から世界に通用するスタートアップを生み出す。そのためには、シードという最初の一歩を支える存在が絶対に必要。それが私たちの存在意義です。
三田 絵理
インタビューを終えて席を立つ三田氏の表情からは、スタートアップエコシステムの未来への確かな自信が感じられた。SeedHub Venturesの挑戦は、日本のVC業界に新しい風を吹き込み続けている。