老舗精密部品メーカーが挑む脱炭素革命―環境と収益を両立する製造業の未来図
製造・メーカー

老舗精密部品メーカーが挑む脱炭素革命―環境と収益を両立する製造業の未来図

創業67年の町工場が描く、カーボンニュートラル時代の生き残り戦略

株式会社協栄精密工業

西村 浩司
代表取締役社長 西村 浩司 株式会社協栄精密工業

自動車・航空機向け精密部品で培った技術力を武器に、再生可能エネルギー分野へ進出。環境投資と利益創出の両立に挑む老舗メーカーの変革ストーリー。

脱炭素への舵切りは「生き残るための必然」

編集部
協栄精密工業は昨年、工場の電力を100%再生可能エネルギーに切り替えました。製造業にとって大きな決断だったと思いますが、何がきっかけだったのでしょうか。
西村社長
きっかけは3年前、大手自動車メーカーのサプライヤー説明会でした。2030年までに取引先全体でカーボンニュートラルを実現するという方針が示されたんです。当初は「また新しい要求か」と正直戸惑いました。しかし、話を聞くうちにこれは単なる環境対応ではなく、取引継続の条件だと理解しました。脱炭素に対応できなければ、取引先から外される。67年続いた当社の存続に関わる問題だったんです。
編集部
実際に再エネ転換を進める中で、どのような課題がありましたか。
西村社長
最大の課題はコストでしたね。当初の試算では電気代が年間で約2割増加する見込みでした。利益率が決して高くない製造業にとって、これは非常に重い負担です。ただ、詳しく調べていくうちに、自家消費型の太陽光発電を導入すれば、長期的にはコスト削減になることが分かりました。初期投資は約2億円と大きかったですが、10年で回収できる計算です。さらに、カーボンニュートラル対応を前面に出すことで、新規取引先の開拓にもつながっています。
編集部
経営判断として、投資に踏み切った決め手は何だったのですか。
西村社長
決め手は二つあります。一つは、やらなければ確実に取引を失うという危機感。もう一つは、先行投資することで競合との差別化ができるという戦略的判断です。実際、カーボンニュートラル対応を完了した今、欧州の航空機メーカーから新たに引き合いがありました。環境対応は守りではなく、攻めの投資だったと確信しています。

脱炭素は重荷ではなく、次の時代を生き残るための武器になる

── 西村社長

技術の転用で新市場を開拓

編集部
環境対応と並行して、再生可能エネルギー分野への進出も発表されていますね。
西村社長
はい。当社は自動車エンジン部品や航空機の油圧システム部品を製造してきました。高精度な切削加工と、極限環境下での耐久性が求められる分野です。この技術は実は、洋上風力発電の部品製造にも応用できるんです。海上という過酷な環境で20年以上稼働する風力発電機には、高い精度と耐久性が不可欠。当社の強みが活かせる分野だと考えました。
編集部
新規参入にあたって、どのような準備をされたのですか。
西村社長
まず、再エネ分野の展示会に足を運び、求められる技術水準を徹底的に調査しました。同時に、大学の研究室や風力発電メーカーとの共同研究も開始しました。重要だったのは既存の設備と技術を最大限活用すること。ゼロから設備投資をすると資金が続きません。幸い、当社の5軸マシニングセンタや検査設備は、風力発電部品の製造にも十分対応できました。新たに投資したのは、塩害対策の特殊コーティング設備くらいです。
編集部
実際に受注は獲得できているのでしょうか。
西村社長
昨年秋に国内大手の風力発電事業者から、試作品の発注をいただきました。現在、量産化に向けた最終調整を進めています。受注額は当初、全体の5%程度ですが、5年後には売上の3割を再エネ分野にする目標を掲げています。自動車産業がEVシフトで構造変革する中、新たな収益の柱を育てることが急務です。エンジン部品の需要減を、風力発電部品で補う。これが当社の生き残り戦略です。

既存技術の転用こそ、中小メーカーが新市場を開拓する最短ルート

── 西村社長

人材育成と世代交代の挑戦

編集部
新分野への挑戦には、社員の意識改革も必要だったのではないでしょうか。
西村社長
その通りです。実は最初、ベテラン社員からは反発もありました。「今まで通りのやり方で十分だ」「新しいことをして失敗したらどうする」という声です。特に勤続30年以上の職人たちは、自動車部品一筋でやってきたプライドがあります。彼らの気持ちも分かりますが、環境変化に適応しなければ会社が消える。そこで、まず私自身が風力発電の現場を視察し、その写真や動画を社内で共有しました。「我々の技術がこんな大きなものを動かす」と実感してもらうことが重要でした。
編集部
若手社員の育成はどのように進めていますか。
西村社長
若手には積極的に新規プロジェクトを任せています。30代のエンジニアをリーダーにして、風力発電部品の開発チームを編成しました。ベテランと若手をペアにして、技術継承と新発想の融合を図っています。また、外部の技術セミナーや展示会への参加も奨励し、年間の教育研修費を従来の2倍に増やしました。人材への投資を惜しんでは、変革は実現できません。
編集部
今後、製造業が持続的に成長するために必要なことは何だとお考えですか。
西村社長
三つあります。一つは環境対応を経営の中核に据えること。これは避けられない潮流です。二つ目は、既存技術を新市場に応用する柔軟性。自動車がダメなら航空機、航空機がダメなら再エネという具合に、技術の汎用性を高めることです。三つ目は人材育成。どんなに優れた設備があっても、それを使いこなす人材がいなければ意味がありません。当社は従業員85名の中小企業ですが、一人ひとりが変化を恐れず挑戦する組織を作りたい。それが次の67年を生き抜く力になると信じています。創業者である私の父は「技術で社会に貢献する」が口癖でした。脱炭素も新規事業も、その精神の延長線上にあります。時代が変わっても、ものづくりで社会を支えるという使命は変わりません。

変化を恐れない組織文化こそが、中小製造業の最大の資産

── 西村社長

エピローグ

編集部
最後に、同じように変革を迫られている製造業の経営者にメッセージをお願いします。
西村社長
脱炭素もDXも、確かに大変です。でも、ピンチは必ずチャンスになります。当社も3年前は不安だらけでしたが、今では新しい取引先が増え、社員の表情も明るくなりました。重要なのは、完璧を目指さず、できることから始めること。太陽光パネル1枚からでもいい。小さな一歩が大きな変革につながります。そして、経営者自身が変化を楽しむこと。その姿勢が組織全体に伝わります。日本の製造業は、世界に誇る技術力があります。環境対応も新規事業も、その技術があれば必ず乗り越えられる。一緒に次の時代を切り拓きましょう。
📝 まとめ
・取引先の脱炭素要求を機に、工場の電力を100%再エネ化。初期投資2億円も10年で回収見込み
・自動車・航空機部品で培った精密加工技術を、洋上風力発電部品に転用。5年後に売上の3割を目指す
・ベテランと若手をペアにした技術継承と、外部研修の強化で人材育成を加速
・環境対応・技術転用・人材育成の三本柱で、創業67年の老舗メーカーが持続的成長を実現

🏢企業情報

会社名 株式会社協栄精密工業
業種 製造・メーカー
役職 代表取締役社長
代表者 西村 浩司
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