年金基金出身者が立ち上げた異色のVC
2020年に設立されたグロースパートナーズは、総額85億円のファンドを運用する独立系ベンチャーキャピタルだ。代表の赤塚健一郎氏は、大手年金基金で12年間オルタナティブ投資を担当した後、外資系プライベートエクイティファンドを経て起業した異色の経歴を持つ。
「従来のVCは起業家目線での支援に注力していますが、私たちはLP視点でのファンド設計を徹底しています」と赤塚氏は語る。年金基金や事業会社など約20社のLPから資金を預かり、ミッドステージからレイターステージのスタートアップに投資を行っている。1社あたりの投資額は3億円から10億円、ポートフォリオ企業数は現在18社だ。
赤塚氏が特に重視するのが、IRR(内部収益率)とDPI(分配率)のバランスだ。「多くのVCはIRRを追求しますが、実際にLPが求めているのはキャッシュでの回収、つまりDPIなんです。ペーパーゲインではなく、実際にエグジットして資金を返すことが信頼につながります」。
独自のデューデリジェンスプロセス
グロースパートナーズの投資判断プロセスは、一般的なVCとは一線を画している。通常のビジネスデューデリジェンスに加えて、財務・法務・税務の専門家チームによる詳細な監査を投資前に実施する点が特徴だ。
「ミッドステージ以降の投資では、すでにビジネスモデルが確立されているため、潜在的なリスクの洗い出しが重要になります」と赤塚氏は説明する。過去には、デューデリジェンスの過程でストックオプションの設計に税務上の問題が発覚し、投資実行前に解決した事例もあったという。
投資先の選定基準は明確だ。ARR(年間経常収益)が5億円以上、ネットレベニューリテンション率が120%以上、そしてユニットエコノミクスが健全であることが必須条件となる。「SaaSビジネスであれば、CAC回収期間が18ヶ月以内、LTV/CAC比率が3倍以上を目安にしています」。
また、投資先の約6割がB2B SaaS企業で、残りはフィンテック、HRテック、ロジスティクステックなど産業のDXを推進する領域に分散している。「一つのセクターに偏らず、マクロ経済環境の変化に強いポートフォリオ構築を心がけています」と赤塚氏は語る。
ハンズオン支援とネットワーク活用
グロースパートナーズは、投資後のバリューアップ支援にも力を入れている。特に注力しているのが、CFO人材の紹介とIPO準備支援だ。赤塚氏自身が金融のプロフェッショナルであることから、資本政策の設計や監査法人・主幹事証券会社の選定などで具体的なアドバイスを提供している。
「IPOを目指すスタートアップにとって、適切なバリュエーションでの資金調達タイミングは極めて重要です。市場環境を見誤ると、ダウンラウンドのリスクも出てきます」。実際、2022年から2023年にかけての市況悪化局面では、複数のポートフォリオ企業に対してIPOの延期を助言し、代わりにデットファイナンスの活用を提案したという。
また、LP企業とのシナジー創出も重要な支援メニューだ。「事業会社LPには、単なる財務的リターンだけでなく、戦略的リターンも求められています」。実際に、大手製造業のLPとポートフォリオのIoT企業を繋ぎ、実証実験から本格導入に至った事例もある。こうした取り組みが評価され、セカンドファンドへの再出資率は95%に達している。
独立系VCとしての今後の展望
スタートアップ投資環境が厳しさを増す中、グロースパートナーズは2024年中にセカンドファンドのファーストクローズを予定している。目標額は150億円と、初号ファンドの約1.8倍の規模だ。
「市況が厳しい今こそ、規律あるファンド運営の価値が際立ちます」と赤塚氏は自信を見せる。実際、ファーストファンドからは既に2社がIPOを果たし、1社がM&Aでエグジット。グロスIRRは現時点で28%と、業界平均を大きく上回る成績を残している。
今後の戦略として、赤塚氏はセカンダリー取引への参入も視野に入れている。「成熟したスタートアップのセカンダリー市場は、米国では一般的ですが、日本ではまだ黎明期。ここに大きな機会があると考えています」。既存投資家からの株式取得を通じて、優良企業への投資機会を増やす計画だ。
また、LP基盤の拡大にも注力する。「海外機関投資家からの引き合いも増えています。日本のスタートアップエコシステムの成熟度は、グローバル投資家から見ても魅力的な水準に達しつつあります」。実際、シンガポールのソブリン・ウェルス・ファンドや欧州の年金基金との協議を進めているという。
VCの本質は、起業家とLPの間に立つ受託者です。両者の利益を最大化することが、私たちの使命だと考えています。
赤塚健一郎氏
独立系VCとして、大手ファンドとは異なる視点と専門性で存在感を示すグロースパートナーズ。LP重視の姿勢と堅実なファンド運営が、日本のVC業界に新たな潮流を生み出しつつある。