地方食材の可能性を冷凍技術で解放する
「地方には素晴らしい食材や料理があるのに、流通の壁で都市部の消費者に届かない。この課題を解決したかった」と語るのは、株式会社フローズンファームの高橋恵美CEOだ。同社は2019年の創業以来、液体急速冷凍技術を核とした産地直送型のECプラットフォームを展開。北海道から沖縄まで約180の生産者・飲食店と提携し、鮮度を保ったまま冷凍した食材や調理済み料理を全国の消費者に届けている。
高橋CEOが着目したのは、従来の冷凍技術の課題だった。「一般的なエアブラスト冷凍では、食材内部の水分が氷結晶化する際に細胞を破壊してしまい、解凍時にドリップが発生して旨味が流出します。私たちが導入したリキッドフリーザーは、マイナス35度のアルコール液に食材を浸漬させることで、通常の20倍の速度で凍結します。これにより氷結晶を微細化し、細胞破壊を最小限に抑えられるのです」。この技術により、解凍後も採れたて・作りたての味わいを再現できることが、同社の最大の強みとなっている。
現在、同社のECサイトには約1,200アイテムが並ぶ。青森のホタテ、石川の加能ガニ、高知の清水サバなど旬の魚介類に加え、地方の名店が作る郷土料理や、ミシュラン掲載店のシェフが監修した特別メニューまで幅広い。月間の受注件数は約8,000件、顧客のリピート率は68%に達している。
コロナ禍で急成長、飲食店との共創モデル
同社の成長を加速させたのは、皮肉にも新型コロナウイルスのパンデミックだった。「2020年春、多くの飲食店が休業を余儀なくされました。私たちは提携先の飲食店から『何とか売上を作る方法はないか』という切実な相談を受けたのです」と高橋CEOは振り返る。
そこで同社が打ち出したのが、「名店の味を家庭で」というコンセプトだ。飲食店の看板メニューを液体急速冷凍し、ECサイトで販売。店舗側は家賃や人件費といった固定費を抑えながら売上を確保でき、消費者は自宅で本格的な味を楽しめる。この三方良しのモデルが注目を集め、2020年度の売上は前年比320%の成長を記録した。
「特に反響が大きかったのは、京都の老舗割烹とのコラボレーションです。100年以上の歴史を持つ料亭の八寸や煮物を冷凍商品化したところ、初月で2,800セットが完売しました」。価格は1セット8,800円と決して安くはないが、「店舗で食べれば2万円以上する味を自宅で楽しめる」という価値提案が支持された。この成功を機に、ミシュラン星付きレストランや地方の隠れた名店からの提携依頼が相次いでいる。
飲食店側のメリットも大きい。「冷凍商品は賞味期限が6ヶ月から1年と長く、フードロスの削減にもつながります。また、調理済み商品の場合、店舗の営業時間外に仕込むことで効率的に生産できます」と高橋CEOは説明する。実際、提携飲食店の平均で、冷凍商品販売が全売上の25〜30%を占めるまでになっているという。
物流とテクノロジーへの継続投資
急成長する事業を支えるのが、物流インフラとITシステムへの積極投資だ。同社は千葉と大阪に自社の冷凍物流センターを保有し、マイナス25度以下の温度管理を徹底している。「冷凍食品は温度変動が品質劣化に直結します。特に家庭用冷凍庫はマイナス18度程度なので、物流過程での温度管理が極めて重要なのです」。
2022年には総額3億円を投じて物流システムを刷新。WMS(倉庫管理システム)を導入し、入荷から出荷までの動線を最適化した結果、出荷処理時間を従来比40%削減することに成功した。また、AIを活用した需要予測システムも導入。過去の販売データや気象情報、SNSトレンドなどを分析し、適正在庫量を自動算出することで、欠品率を5%以下に抑えている。
配送面でも工夫を凝らす。「冷凍宅配便の送料は常温便の1.5倍かかります。送料負担が購入のハードルになるため、私たちは定期便モデルに注力しています」。月額9,800円で毎月おまかせセットが届く定期便サービスは、現在約3,200名が利用。配送コストを抑えつつ、顧客のLTV(顧客生涯価値)向上にも寄与している。
テクノロジー面では、ECサイトにパーソナライズレコメンド機能を実装。購入履歴や閲覧履歴から顧客の嗜好を分析し、最適な商品を提案する。「例えば魚介類を頻繁に購入する方には新着の海鮮商品を、和食志向の方には郷土料理をレコメンドします。このシステム導入後、客単価が平均15%向上しました」と、データドリブンな経営姿勢を強調する。
サステナビリティと次なる展開
高橋CEOが今後の重要テーマとして掲げるのが、持続可能性だ。「食産業に関わる企業として、環境負荷低減は避けて通れません」。同社は2023年から、配送に使用する発泡スチロール箱を、再生可能素材を80%使用したエコボックスに順次切り替えている。コストは従来比20%増だが、「顧客からの支持は価格以上の価値がある」と判断した。
また、規格外品や未利用魚の活用にも取り組む。「形が不揃いでも味は変わりません。こうした食材を加工品として冷凍商品化することで、廃棄される食材を価値ある商品に変えられます」。実際、規格外の野菜を使ったスープや、未利用魚を使った魚介ミックスは、通常商品より20%安価に設定し好評を得ている。年間で約45トンの食材廃棄削減に貢献しているという。
海外展開も視野に入れている。「日本の食文化は世界で高く評価されています。特にアジア圏の富裕層からの需要は大きい」。2024年中にシンガポールと香港でテスト販売を開始予定で、現地の日系百貨店と提携交渉を進めている。「現地の法規制や物流インフラの違いはありますが、私たちの冷凍技術なら、日本の味をそのまま届けられる自信があります」。
地方には宝の山がある。技術とビジネスモデルで、その価値を最大化し、生産者も消費者も幸せにする。それが私たちのミッションです。
高橋恵美CEO
さらに、BtoB事業の拡大にも注力する。「ホテルやレストラン、給食事業者から『安定的に高品質な食材を調達したい』というニーズが高まっています」。業務用に特化した専用サイトを立ち上げ、ロット販売や定期配送に対応。すでに首都圏の約120店舗と取引を開始し、2024年度はBtoB売上を全体の35%まで引き上げる計画だ。
高橋CEOは最後にこう語る。「食は人を幸せにする力があります。私たちは技術を武器に、生産者の想いと消費者の期待をつなぐ架け橋でありたい。そして5年後には、年商100億円規模の食のプラットフォーム企業へと成長させます」。冷凍技術というイノベーションで、日本の食産業に新たな風を吹き込む同社の挑戦は続く。