創業60年の精密金型メーカーが挑むDX改革と次世代人材育成戦略
製造・メーカー

創業60年の精密金型メーカーが挑むDX改革と次世代人材育成戦略

アナログ職人技とデジタル技術の融合で開く、中小製造業の未来

株式会社タカミツ精工

高光 俊介
代表取締役社長 高光 俊介 株式会社タカミツ精工

東大阪の精密金型メーカー、タカミツ精工。創業から60年の歴史を持つ老舗企業が、大胆なDX改革と若手育成で業界に新風を吹き込んでいる。三代目社長が語る、製造業の生き残り戦略とは。

三代目社長が直面した危機と改革の決断

編集部
まず、タカミツ精工の事業内容について教えてください。
高光社長
当社は1964年に私の祖父が創業した精密金型メーカーです。主に自動車部品や家電製品、医療機器向けの精密金型を設計・製造しています。東大阪という「モノづくりの聖地」で60年間、ミクロン単位の精度を追求してきました。従業員は現在52名、年商は約12億円の規模です。特に自動車のエンジン周辺部品や、最近では電気自動車のバッテリー関連部品の金型で高い評価をいただいています。
編集部
高光社長が三代目として就任されたのはいつ頃ですか?
高光社長
2018年に父から社長職を引き継ぎました。当時私は38歳でした。実は就任直後、会社は大きな危機に直面していたんです。主力取引先の生産拠点が海外移転することが決まり、売上の約40%を失う可能性がありました。さらに熟練職人の高齢化も進み、10年以内に技術伝承ができなくなる恐れもあった。父の代までのやり方では立ち行かないと痛感し、抜本的な改革を決意しました。
編集部
具体的にどのような改革に着手されたのでしょうか?
高光社長
大きく三つの柱を立てました。一つ目はデジタル技術の全面導入、二つ目は新規事業領域への参入、三つ目は人材育成システムの刷新です。特にDXについては、社内に懐疑的な声も多かったのですが、「職人技を否定するのではなく、デジタルで増幅させる」というコンセプトで進めました。3D CADやCAE解析ソフトの導入、さらにはAIを活用した品質予測システムまで、段階的に投資を行いました。初期投資は約8,000万円と、当社にとっては大きな決断でしたね。

職人技を否定するのではなく、デジタルで増幅させる

── 高光社長

DX推進で見えた成果と現場の変化

編集部
DX導入後、現場にはどのような変化がありましたか?
高光社長
最初の半年は正直、混乱もありました。60代のベテラン職人が「今までのやり方で十分だ」と抵抗することもあった。しかし、実際に試作期間が平均30%短縮され、不良率も従来の半分以下になるという数字が出始めると、空気が変わりました。特に効果的だったのは、ベテランの勘やコツをデータ化して若手に共有できるようになったことです。例えば、金型の温度管理や切削速度の微調整など、言葉では説明しにくかった技術が可視化されたんです。
編集部
若手とベテランの協働体制はどう構築されたのですか?
高光社長
「デジタルネイティブ」の若手と「職人技のプロ」であるベテランを、必ずペアで組ませる体制にしました。若手がデジタルツールを駆使してシミュレーションし、ベテランが実際の加工で微調整するという役割分担です。するとお互いの強みを認め合うようになり、世代を超えた学び合いの文化が生まれました。今では70歳のベテランがタブレットでデータを確認しながら作業していますし、20代の若手が職人の手の動きを食い入るように見ています。
編集部
新規事業領域への参入についても教えてください。
高光社長
医療機器分野と再生可能エネルギー分野に参入しました。特に医療機器は成長市場であり、当社の精密加工技術が活きる領域です。手術用器具の金型や、検査装置の部品などを手がけています。認証取得などハードルは高かったのですが、自動車依存からの脱却という意味で大きな一歩でした。現在、医療機器関連は売上の約20%まで成長し、利益率も高いため経営の安定化に貢献しています。再生可能エネルギー分野では、太陽光発電の架台部品などを製造しています。

次世代人材育成と中小製造業の未来展望

編集部
人材育成の刷新について、具体的な取り組みを教えてください。
高光社長
まず給与体系を完全に見直しました。年功序列ではなく、スキルベースの評価制度を導入したんです。デジタルスキル、職人技術、マネジメント能力などを項目化し、習得度合いに応じて給与が上がる仕組みです。また、社員の学び直しを全面支援する制度も作りました。外部セミナーや資格取得の費用は会社が全額負担し、さらに学習時間も勤務時間として認めています。年間の教育投資は売上の約3%、約3,600万円です。
編集部
採用面での変化はありましたか?
高光社長
大きく変わりましたね。以前は年に1〜2名採用できれば良い方でしたが、今は毎年5〜6名の応募があり、選考できる状況です。特に「デジタル×モノづくり」というキーワードに惹かれる理系学生が増えました。工業高校や高専との連携も強化し、インターンシップを積極的に受け入れています。若手社員には入社3年目で海外の展示会に同行させるなど、早期からキャリアの幅を広げる機会を提供しています。離職率も改革前の年15%から、現在は5%以下に改善しました。
編集部
中小製造業を取り巻く環境は厳しさを増していますが、今後の展望をお聞かせください。
高光社長
確かに厳しい環境ですが、中小だからこその機動力を活かせば勝機はあると考えています。大手にはできない小ロット・短納期対応、高度なカスタマイズ、これらは中小製造業の強みです。当社も今後、さらにデジタル技術を深化させ、設計から製造まで一貫したワンストップサービスを強化します。また、他の中小企業との連携も重要です。現在、地域の5社と「東大阪精密加工コンソーシアム」を立ち上げ、それぞれの強みを持ち寄って大型案件に対応する体制を構築中です。
編集部
最後に、同じく製造業で奮闘する経営者の方々へメッセージをお願いします。
高光社長
変化を恐れないでください、ということですね。私も改革を始めた時は不安でいっぱいでした。でも、伝統と革新は対立するものではなく、融合させるものだと今は確信しています。長年培ってきた技術やノウハウは宝です。それを現代の技術で磨き上げ、次世代に継承していく。そのために経営者が先頭に立って学び、挑戦し続ける姿勢が何より大切だと思います。日本の製造業には、まだまだ可能性があります。一緒に未来を切り開いていきましょう。

伝統と革新は対立するものではなく、融合させるもの

── 高光社長
📝 まとめ
・創業60年の精密金型メーカーが主力取引先喪失の危機を機に、DX改革と事業転換を断行
・デジタル技術導入により試作期間30%短縮、ベテランと若手の世代を超えた協働体制を実現
・医療機器・再生可能エネルギー分野への参入で自動車依存から脱却、売上構造を多角化
・スキルベースの給与体系と学び直し支援制度により、離職率を15%から5%以下に改善

🏢企業情報

会社名 株式会社タカミツ精工
業種 製造・メーカー
役職 代表取締役社長
代表者 高光 俊介
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