データ駆動型農業で地方を再生する——株式会社アグリノベーションの挑戦
農業・食農テック

データ駆動型農業で地方を再生する——株式会社アグリノベーションの挑戦

IoTセンサーとAI解析で、誰もが稼げる農業へ

株式会社アグリノベーション

黒木 健太郎
代表取締役CEO 黒木 健太郎 株式会社アグリノベーション

人手不足と高齢化に悩む日本の農業界に、最先端テクノロジーで革新をもたらす。熊本発のアグリテックベンチャーが目指す「データ駆動型農業」の未来とは。

農業×テクノロジーで地方創生を実現

編集部
まず、アグリノベーション設立の経緯についてお聞かせください。
黒木CEO
私自身、熊本の農家の三男として育ちました。実家はトマト栽培を50年以上続けているのですが、父や兄が毎日朝から晩まで働いても、なかなか収益が上がらない現実を目の当たりにしてきました。一方で、東京の大学で情報工学を学び、IT企業でデータサイエンティストとして働く中で、「この技術を農業に応用できれば、絶対に変えられる」と確信したんです。2018年に地元に戻り、IoTセンサーとAI解析技術を活用した営農支援システムの開発をスタートさせました。
編集部
具体的にはどのようなサービスを提供されているのでしょうか。
黒木CEO
当社の主力サービスは「AgriSense」という統合営農管理プラットフォームです。ハウス内に設置した温度・湿度・CO2濃度・土壌水分などを計測する各種センサーから24時間365日データを収集し、クラウド上でAIが解析します。そして、最適な灌水タイミング、換気のタイミング、追肥の時期などをスマートフォンに通知する仕組みです。さらに、過去の収穫データと気象データを組み合わせることで、収穫量や品質の予測も可能にしています。現在、九州を中心に約350農家に導入いただいています。
編集部
従来の「勘と経験」に頼る農業とは大きく異なりますね。
黒木CEO
その通りです。ベテラン農家の方々は長年の経験から素晴らしい技術をお持ちですが、それを言語化して次世代に伝えるのは非常に難しい。また、気候変動により従来の経験則が通用しなくなってきているという課題もあります。私たちはデータという客観的な指標を提供することで、新規就農者でも一定の品質と収量を確保できる環境を作りたいと考えています。実際、導入農家では平均して収量が18%向上し、労働時間は25%削減できているというデータが出ています。

データという客観的な指標があれば、新規就農者でも稼げる農業が実現できる

── 黒木CEO

農家と二人三脚で作り上げたシステム

編集部
開発段階での苦労はありましたか。
黒木CEO
最初は本当に苦労の連続でした。エンジニアだけでシステムを作っても、現場で使えなければ意味がありません。最初のプロトタイプを実家のハウスに設置したとき、父から「こんな難しいもの、使えるか」と一蹴されました(笑)。そこで方針を転換し、実際に農家さんの作業に密着して、本当に必要な機能だけを抽出していきました。UIも高齢者でも直感的に操作できるよう、ボタンを大きくしたり、専門用語を極力排除したりと、何度も改良を重ねました。
編集部
農家の方々の反応はいかがでしたか。
黒木CEO
初期の頃は「またITベンチャーが来た」という冷ややかな目で見られることも多かったです。農業IT分野では、現場を知らない企業が理想論だけで参入して失敗するケースが少なくありませんから。でも、私たちは実際に畑に入って一緒に汗を流し、農家さんの声を徹底的に聞く姿勢を貫きました。あるトマト農家の山田さんという方が、最初は懐疑的だったのですが、3ヶ月の試験導入で収量が23%アップしたデータを見て、「これは本物だ」と言ってくださって。その方が地域の農家仲間に紹介してくださったことが、普及の大きな転機になりました。
編集部
技術面での工夫はどのような点にありますか。
黒木CEO
農業現場は工場などとは違い、過酷な環境です。高温多湿、土埃、農薬の散布など、精密機器にとっては厳しい条件が揃っています。センサーの防水・防塵性能は徹底的にテストしましたし、通信環境が不安定な農村部でも使えるよう、オフライン時のデータ保存機能やLTE対応も実装しています。また、初期投資を抑えるため、センサーキットは月額制のサブスクリプションモデルにしました。初期費用3万円、月額9,800円から始められるプランを用意しています。
編集部
データセキュリティについてはいかがでしょうか。
黒木CEO
非常に重要な問題です。農家さんの収量データや栽培ノウハウは貴重な財産ですから、データの所有権は完全に農家さんにあるという方針を明確にしています。当社はあくまでデータ管理をお手伝いする立場で、第三者への提供は一切行いません。また、サーバーは国内の信頼できるクラウドサービスを利用し、暗号化も徹底しています。この点は契約時に必ず説明するようにしています。

データの所有権は農家にある。私たちは農家のパートナーであり続けたい

── 黒木CEO

次世代農業のエコシステム構築へ

編集部
今後の展開について教えてください。
黒木CEO
現在、3つの方向性で事業を拡大しています。第一に、対象作物の拡大です。これまではトマトやイチゴなどの施設園芸が中心でしたが、露地野菜や果樹にも対応したセンサーを開発中です。第二に、スマート農機との連携です。大手農機メーカーと協業し、当社のデータを基に自動で灌水や施肥を行うシステムの実証実験を進めています。第三に、流通との連携です。収穫予測データを活用して、食品スーパーや外食チェーンと農家を直接結ぶマッチングプラットフォームの構築を目指しています。
編集部
流通との連携は興味深いですね。具体的には?
黒木CEO
現在の農産物流通は中間業者が多く、農家の手取りが少ないという構造的な問題があります。一方で、小売や外食側は安定した品質と数量の確保に苦労しています。当社のシステムがあれば、2週間後にどの農家がどれだけ収穫できるかが高精度で予測できます。このデータを基に、買い手と直接マッチングすることで、農家の収益向上と買い手の調達安定化を同時に実現できると考えています。すでに大手スーパー2社と実証実験を開始しており、来年には本格展開の予定です。
編集部
海外展開の計画はありますか。
黒木CEO
はい、すでにタイとベトナムで現地パートナーと協議を進めています。東南アジアは経済成長に伴い食料需要が急増していますが、農業の生産性向上が追いついていません。日本で培った技術とノウハウは、必ず役立つと確信しています。ただし、現地の気候や栽培方法、農家の経済状況は日本と大きく異なるため、ローカライズには十分な時間をかけたいと思っています。まずは現地の大学や研究機関と共同研究を行い、データを蓄積するフェーズです。
編集部
最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
黒木CEO
私たちが目指すのは、「農業を選択肢として選べる社会」の実現です。現状、農業は「きつい、汚い、稼げない」というイメージが強く、若者が敬遠してしまいます。でも、テクノロジーの力で労働環境を改善し、データに基づいた経営で収益性を高められれば、農業は魅力的な職業になるはずです。実際、当社のシステムを使って新規就農した30代のユーザーが、初年度から年収500万円を達成した事例もあります。10年後には、「農業はクールでスマートな仕事だ」と言われる時代を作りたいですね。
編集部
素晴らしいビジョンですね。応援しています。
黒木CEO
ありがとうございます。農業は日本の根幹を支える産業です。私たちだけでなく、業界全体で力を合わせて、次世代に誇れる農業を作っていきたいと思います。テクノロジーは手段であり、目的は農家の幸せと日本の食の未来です。その原点を忘れずに、これからも現場に寄り添った開発を続けていきます。

10年後には、農業はクールでスマートな仕事だと言われる時代を作りたい

── 黒木CEO

📝 まとめ
・IoTセンサーとAI解析による営農支援システム「AgriSense」を展開し、導入農家では平均収量18%向上、労働時間25%削減を実現
・農家と二人三脚で開発を進め、現場のニーズに徹底的に応えることで九州を中心に350農家が導入
・収穫予測データを活用した流通マッチングプラットフォームの構築により、農家の収益向上と流通の効率化を同時に目指す
・「農業を選択肢として選べる社会」の実現をビジョンに掲げ、テクノロジーで農業の魅力を高める挑戦を続ける

🏢企業情報

会社名 株式会社アグリノベーション
業種 農業・食農テック
役職 代表取締役CEO
代表者 黒木 健太郎
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