在宅医療現場が抱える構造的課題
「在宅医療の現場は、想像以上に非効率なアナログ業務に満ちています」と藤崎社長は切り出した。株式会社メディサポート24は、在宅医療・訪問看護に特化した統合型医療プラットフォームを開発・提供するヘルステック企業だ。2019年の創業以来、全国420以上の医療機関・訪問看護ステーションに導入され、約8万人の在宅患者の医療情報を管理している。
藤崎社長自身、医療機器メーカーでの営業経験を経て、父親が経営する診療所の事業承継準備中に在宅医療の現場を目の当たりにした。「訪問スケジュールは紙の手帳、カルテは手書き、多職種連携は電話とFAX。医師や看護師が本来の医療行為以外に費やす時間があまりにも多かったんです」。この課題感が起業のきっかけとなった。
厚生労働省の統計によれば、在宅医療を受ける患者数は2020年時点で約18万人。2025年には約30万人に達すると予測されている。一方で訪問診療を行う医療機関の約65%が「人材確保が困難」と回答しており、需要と供給のギャップは拡大する一方だ。
多職種連携を可能にするプラットフォーム設計
メディサポート24が提供する「CareLinkPro」は、訪問スケジュール管理、電子カルテ、多職種間情報共有、レセプト業務支援を統合したクラウド型システムだ。最大の特徴は、医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャー、理学療法士など、在宅医療に関わる全職種が同一プラットフォーム上でリアルタイムに患者情報を共有できる点にある。
「従来は職種ごとに異なるシステムを使い、情報連携は電話やFAXに依存していました。患者の容態変化を共有するだけで何件も電話をかけ、30分以上かかることも珍しくない。CareLinkProでは、バイタルデータや処置内容を入力すれば、関係者全員にプッシュ通知が届き、コメント機能でやり取りできます」
さらに同社は2022年からAIによる訪問ルート最適化機能を実装した。患者の住所、訪問頻度、処置時間、医療スタッフの勤務時間などのデータを機械学習で分析し、最適な訪問順序を自動提案する。「導入施設では平均で1日あたり移動時間を42分削減できたというデータが出ています。その時間を患者ケアに充てられるのは大きい」と藤崎社長は強調する。
医療データ活用で実現する予防的介入
在宅医療DXの真価は、単なる業務効率化にとどまらない。蓄積された医療データの分析による予防的介入こそが、藤崎社長が描く未来像だ。
「在宅患者の約40%は、急変による緊急搬送を経験しています。しかしバイタルデータや処置記録を時系列で分析すると、急変の数日前から予兆が見られるケースが多い。このパターンをAIで学習させ、リスクスコアとしてアラートを出す機能を開発中です」
2023年には東京都内の訪問看護ステーション5施設と共同で実証実験を実施。心不全患者の急変予測モデルを構築し、感度78%、特異度82%という精度を達成した。「まだ研究段階ですが、将来的には緊急搬送を20%削減できると試算しています。患者のQOL向上だけでなく、医療費適正化にも貢献できる」
在宅医療は最後の砦ではなく、最良の選択肢であるべきです。そのためにはテクノロジーの力で、医療者が本来の仕事に集中できる環境を整えなければなりません。
藤崎健介社長
地域包括ケアの理想形を目指して
現在、メディサポート24は新たなサービス展開を準備している。それが患者・家族向けアプリ「ケアポケット」だ。服薬管理、体調記録、医療スタッフとのチャット機能などを搭載し、患者自身が医療プロセスに主体的に参加できる仕組みを目指す。
「在宅医療では家族の介護負担も深刻な問題です。『いつ来てくれるのか』『何を準備すればいいのか』といった不安を解消し、医療者とのコミュニケーションをスムーズにする。患者・家族を含めた真の多職種連携が地域包括ケアの理想形だと考えています」
事業拡大に向けて、2024年3月にはシリーズBラウンドで15億円の資金調達を完了した。調達資金は開発体制の強化、営業エリアの拡大、医療機関との実証実験に投じる計画だ。「2027年までに導入施設2000カ所、対応患者数50万人を目標にしています。さらに将来的には、診療報酬データと連携した経営分析機能や、在宅医療機関向けの人材マッチングサービスも視野に入れています」
日本の高齢化率は29%を超え、2040年には35%に達すると予測される。医療・介護のニーズは増大する一方で、現役世代は減少し続ける。「限られたリソースで最大限のケアを提供するには、デジタル化は選択肢ではなく必須条件です。私たちのミッションは、テクノロジーで在宅医療を持続可能なものにし、すべての人が住み慣れた場所で最期まで暮らせる社会を実現することです」と藤崎社長は力強く語った。
在宅医療DXは、まだ始まったばかりだ。しかしメディサポート24の挑戦は、超高齢社会における医療の未来を切り拓く重要な一歩となるだろう。