地域の食材と職人技で切り拓く、新時代の和食ファストカジュアル戦略
飲食・フード

地域の食材と職人技で切り拓く、新時代の和食ファストカジュアル戦略

「早い、美味い、体に良い」を両立させる和食の新業態

株式会社旬彩キッチン

森川 隆志
代表取締役社長 森川 隆志 株式会社旬彩キッチン

産地直送の旬食材と職人の技術を融合させ、都心で展開する和食ファストカジュアル「旬彩ダイニング」。外食産業の課題に真っ向から挑む、革新的ビジネスモデルとは。

和食ファストカジュアルという新業態への挑戦

編集部
森川社長が立ち上げた「旬彩ダイニング」は、従来のファストフードとも定食屋とも異なる独特のポジショニングですね。この業態を始めたきっかけを教えてください。
森川社長
私は以前、大手外食チェーンで店舗開発を10年ほど担当していました。その中で常に感じていたのが、「速さ」と「質」のトレードオフという業界の宿命です。ファストフードは早いけれど添加物が多く栄養バランスに課題がある。一方、丁寧な定食屋さんは美味しいけれど提供時間がかかり、ランチタイムのビジネスパーソンには使いづらい。この両方を解決できないかと考えたのが始まりです。
編集部
具体的にどのような仕組みで「速さ」と「質」の両立を実現しているのでしょうか。
森川社長
核心はセントラルキッチンと店舗の役割分担にあります。私たちは全国15カ所の契約農家・漁港から毎朝食材を仕入れ、都内のセントラルキッチンで下処理と一次調理を行います。ただし、ここが重要なのですが、完成品は作りません。あくまで「職人が最終調理できる状態」まで準備するんです。店舗では経験豊富な調理スタッフが注文を受けてから仕上げることで、作りたての味と香りを3分以内で提供できます。
編集部
セントラルキッチンというと、チェーン店特有の画一的な味になりがちだと思いますが、そこはどう差別化されていますか。
森川社長
まさにそこが私たちの最大のこだわりです。セントラルキッチンの料理長は、京都の老舗料亭で20年修行した職人です。彼の監修のもと、出汁の取り方、魚の捌き方、野菜の切り方まで、すべて伝統的な和食の技法を守っています。さらに季節ごとにメニューを変え、その時期の旬の食材を最も美味しく食べられる調理法を研究し続けています。例えば今の季節なら、富山県産のホタルイカ、高知県産の新玉ねぎ、山形県産のだだちゃ豆など、全国から20種類以上の旬食材が集まります。

セントラルキッチンでも、職人の技と心は妥協しない。それが私たちの和食ファストカジュアルの原点です

── 森川社長

人材育成と職人文化の継承

編集部
飲食業界全体で人手不足が深刻化していますが、御社ではどのように人材を確保・育成されているのでしょうか。
森川社長
これは私たちも最大の経営課題の一つです。ただ、私たちには他社にない強みがあります。それは「本物の和食を学べる環境」です。実は応募者の約3割が、料理学校を出たものの就職先の料亭やレストランで厳しい徒弟制度に馴染めなかった若者たちなんです。彼らは料理への情熱は持っているのに、長時間労働や理不尽な上下関係に疲弊してしまった。私たちは週休2日、残業月20時間以内を徹底しながらも、一流の職人から直接技術を学べる研修制度を整えています。
編集部
具体的にはどのような研修プログラムなのですか。
森川社長
入社後3ヶ月間は、セントラルキッチンで料理長のもとで基礎を学びます。包丁の研ぎ方から始まり、出汁の味の見極め方、魚の目利き、野菜の旬の判断など、料亭で3年かかる基礎を体系化したカリキュラムで学びます。その後店舗に配属されてからも、月1回は料理長による実技指導があり、年2回は契約農家や漁港を訪問して生産者と直接対話する機会も設けています。こうした取り組みが評価され、昨年は調理師専門学校3校と産学連携協定を結ぶこともできました。
編集部
働き方改革と技術継承の両立は、伝統的な飲食業界では難しいテーマですね。
森川社長
おっしゃる通りです。実は私自身、大手チェーン時代は月80時間残業が当たり前で、体調を崩した経験があります。だからこそ、「持続可能な働き方」なくして飲食業界の未来はないと確信しています。幸い、私たちのオペレーションシステムは効率化されているため、一人当たりの生産性が高く、適正な労働時間でも十分な給与を支払えます。店長クラスで年収500万円、料理長クラスで700万円以上。業界平均を大きく上回る水準です。人を大切にすることが、結果的にサービスの質を高め、お客様の満足につながっています。

若い料理人たちに、和食の技術を学びながら人間らしい生活も送れる。そんな当たり前の環境を作りたかった

── 森川社長

地域経済との共生と今後の展望

編集部
全国15カ所の契約農家・漁港との関係構築はどのように進めたのですか。
森川社長
創業当初は本当に苦労しました。都会の企業が突然来て「食材を卸してほしい」と言っても、簡単には信頼してもらえません。最初の1年は、私自身が毎月各地を回り、生産者の話を聞き、一緒に畑仕事や漁を手伝いながら関係を築きました。特に印象的だったのが、高知県の有機農家の方です。最初は「チェーン店には卸さない」と断られたのですが、3回目の訪問でようやく畑を見せてくれました。そこで私が農業の大変さや有機栽培の哲学について質問すると、目の色が変わって2時間も語ってくれて。「あんたは本気だな」と言って握手してくれた瞬間は、今でも忘れられません。
編集部
単なる取引先ではなく、パートナーシップを重視されているのですね。
森川社長
はい。私たちは「フェアトレード」の精神を大切にしています。市場価格より20〜30%高く買い取り、さらに長期契約で生産者の経営を安定させる。その代わり、最高品質の食材を優先的に回してもらう。この信頼関係があるからこそ、他では手に入らない希少な食材も仕入れられるんです。例えば、島根県の小さな漁港で揚がる天然の岩牡蠣は、ほとんどが高級料亭に行きますが、私たちにも分けていただいています。メニューに載せると「この価格でこの牡蠣が食べられるのか」と驚かれますね。
編集部
今後の事業展開についてお聞かせください。
森川社長
現在都内に8店舗ですが、今期中に15店舗まで拡大する計画です。ただし、出店ペースは慎重にコントロールしています。質を落とさない成長が絶対条件ですから。それよりも注力したいのが、新業態の開発です。実は来月、「旬彩デリ」というテイクアウト専門店を渋谷にオープンします。同じ食材と調理法で、お弁当や総菜を提供する業態です。コロナ禍で在宅勤務が定着し、自宅で質の高い食事を求める需要が高まっています。
編集部
最後に、森川社長が目指す飲食業界の未来像を教えてください。
森川社長
私は、飲食業が「やりがいのある職業」として選ばれる業界にしたいんです。今はまだ「きつい、汚い、給料安い」のイメージが強い。でも本来、食を通じて人を幸せにする仕事ほど素晴らしいものはありません。適正な労働環境、技術を磨ける場、正当な報酬、そして社会からの尊敬。これらが揃えば、優秀な人材が集まり、業界全体のレベルが上がります。私たちの取り組みが一つのモデルケースとなって、業界に良い変化を起こせたら。それが私の最大の目標です。もちろん、その先には海外展開も視野に入れています。日本の和食文化を、正しい形で世界に広めたいですね。

飲食業界を、若者が誇りを持って選べる産業に変えていく。それが私たちの使命です

── 森川社長

📝 まとめ
・和食ファストカジュアルという新業態で「速さ」と「質」を両立
・セントラルキッチンと店舗の役割分担により3分以内で本格和食を提供
・週休2日・残業月20時間以内で職人技術を学べる環境を整備し人材育成
・全国15カ所の契約農家・漁港とフェアトレードのパートナーシップ構築

🏢企業情報

会社名 株式会社旬彩キッチン
業種 飲食・フード
役職 代表取締役社長
代表者 森川 隆志
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