地域密着型の居酒屋チェーンが描く、持続可能な食文化の未来
飲食・フード

地域密着型の居酒屋チェーンが描く、持続可能な食文化の未来

地元食材と生産者との共創で実現する、新しい居酒屋モデル

株式会社郷土厨房

西川 健太郎
代表取締役社長 西川 健太郎 株式会社郷土厨房

全国8都市で展開する「郷土厨房」は、地域の食材と生産者を主役にした居酒屋チェーン。大量仕入れに頼らない独自のビジネスモデルで、飲食業界に新たな風を吹き込んでいる。

地域と共に成長する居酒屋チェーンの誕生

編集部
西川社長は大手外食チェーンでキャリアをスタートされたと伺っています。なぜ独立して「郷土厨房」を立ち上げたのでしょうか。
西川社長
大手チェーンで10年間、店舗運営から商品開発まで経験させていただきました。そこで学んだことは多かったのですが、効率化を追求するあまり、食材の背景にある物語や生産者の顔が見えなくなっていくことに違和感を覚えたんです。ある日、地方の店舗を視察した際、地元の農家さんが「うちの野菜を使ってほしい」と直接訪ねてこられたことがありました。その方の畑を見せていただいたとき、愛情を込めて育てられた野菜の味わいに衝撃を受けたんです。これを都市部のお客様に届けたい、そして生産者と飲食店が対等なパートナーとして成長できるモデルを作りたいと思ったのが起業のきっかけです。
編集部
創業当初から地域密着型のモデルだったのですか。
西川社長
いえ、実は最初は失敗の連続でした。1号店は東京・吉祥寺に出したのですが、地方の食材を仕入れるルートが安定せず、メニューが頻繁に変わってしまってお客様に混乱を与えてしまったんです。そこで発想を転換しました。店舗を出す地域の食材を徹底的に使うというコンセプトに絞り込んだんです。吉祥寺店なら東京・多摩地域の農家さんと提携する。これが功を奏して、地元のお客様が「こんな野菜が近くで作られていたんだ」と驚いてくださり、リピーターが増えていきました。
編集部
現在は8都市に展開されていますが、それぞれの店舗で地元食材を使うというのは、オペレーション的にかなり大変ではないですか。
西川社長
おっしゃる通り、一般的なチェーン展開とは真逆のアプローチです。通常、チェーン店はセントラルキッチンで一括調理し、全店舗で同じメニューを提供することで効率化を図りますよね。私たちは各店舗に仕入れ担当者を配置し、地域の生産者と直接関係を構築しています。確かにコストは高くなりますが、その分、食材の鮮度と品質が圧倒的に高く、何より生産者さんとの信頼関係が財産になっています。台風で野菜が不作になったときも、生産者さんが他の農家を紹介してくれたり、融通を利かせてくれたりするんです。

効率だけを追求すれば、食の背景にある物語は失われてしまう。私たちは物語を売っているんです。

── 西川社長

生産者との共創モデルが生み出す価値

編集部
生産者との関係構築について、もう少し詳しく教えてください。どのように信頼関係を築いているのでしょうか。
西川社長
まず、私たちは生産者を単なる仕入れ先ではなく、ビジネスパートナーとして位置づけています。契約時には必ず経営陣が畑や漁港を訪問し、生産現場を理解することから始めます。そして重要なのは、適正な価格での買い取りです。市場価格に左右されず、生産コストと適正利益を考慮した価格設定を年間契約で結びます。これにより生産者さんは安定した収入を得られ、私たちは計画的な仕入れができる。Win-Winの関係ですね。
編集部
年間契約となると、豊作で余った場合や不作の場合のリスクはどう管理しているのですか。
西川社長
良い質問ですね。豊作の場合は、メニュー開発チームがその食材を主役にした限定メニューを即座に考案します。例えば、トマトが豊作だった年は「完熟トマトの冷製パスタフェア」を全店で展開しました。SNSでも話題になり、通常の1.5倍の集客につながりました。逆に不作の場合は、契約量を調整する条項を設けていますが、その分は他の提携農家からカバーするネットワークを構築しています。現在、全国で約200の生産者・漁師さんと提携しているので、リスク分散ができているんです。
編集部
生産者の方々からはどのような反応がありますか。
西川社長
「こんな取引形態は初めてだ」と驚かれることが多いですね。ある福岡の漁師さんは、「市場に出すと値段が読めないから、船を出すかどうか毎日悩んでいた。年間契約のおかげで計画的に漁ができるようになった」と喜んでくださいました。また、店舗のメニューに生産者の名前と顔写真を掲載しているので、「お客さんから直接感想をもらえるようになった」という声もいただきます。生産者さんのモチベーション向上にもつながっているんです。実際、私たちとの取引開始後、規模を拡大された農家さんも何件もあります。
編集部
それは素晴らしい循環ですね。一方で、お客様からの反応はいかがですか。
西川社長
お客様アンケートでは、「食材の背景を知ることで、より美味しく感じる」という声を多くいただきます。特に20代から40代の女性層に支持されていますね。単に安く飲み食いする場所ではなく、食を通じて地域や生産者とつながる体験を求める方が増えています。店舗では月に1回、生産者を招いたトークイベントも開催していて、毎回満席になります。お客様が農家さんに直接質問したり、「次はこんな野菜を作ってほしい」とリクエストしたり。こうした対話から新しいメニューが生まれることもあるんですよ。

生産者の顔が見える食事は、お客様の心も満たす。それが本当の意味での「ごちそう」だと思います。

── 西川社長

サステナビリティと事業成長の両立

編集部
近年、飲食業界でもサステナビリティが重要視されていますが、御社ではどのような取り組みをされていますか。
西川社長
サステナビリティは経営の根幹に据えています。まず、フードロス削減については、地産地消モデル自体が鮮度の高い食材を必要量だけ仕入れる仕組みなので、廃棄率は業界平均の約3分の1に抑えられています。それでも出る食材の端材は、まかない料理や従業員向けの持ち帰り惣菜として活用しています。また、規格外野菜も積極的に仕入れ、「訳あり野菜のグリル盛り合わせ」として人気メニューになっています。
編集部
規格外野菜の活用は、生産者にとってもメリットが大きそうですね。
西川社長
その通りです。通常、規格外品は市場価格の10分の1以下で取引されるか、廃棄されてしまいます。私たちは規格外でも味は変わらないという前提で、正規品の7割程度の価格で買い取っています。生産者さんは収入が増え、私たちは仕入れコストを抑えられ、お客様にはリーズナブルな価格で提供できる。三方良しの取り組みです。年間で約15トンの規格外野菜を活用しており、これは小規模農家約20軒分の廃棄を救っている計算になります。
編集部
人材育成についてはいかがでしょうか。飲食業界は人手不足が深刻ですが。
西川社長
人材は最も重要な経営資源です。私たちは「食のストーリーテラー」を育てるという方針で教育しています。新入社員は必ず提携農家での研修を経験します。実際に土に触れ、収穫を手伝い、生産者の苦労と喜びを肌で感じてもらうんです。すると、お客様への説明にも熱が入りますし、食材を大切にする意識が自然と育ちます。また、給与水準も業界平均より2割高く設定し、年間休日も120日確保しています。離職率は業界平均が30%のところ、当社は8%です。
編集部
今後の展開について教えてください。さらに店舗を増やしていく計画ですか。
西川社長
店舗数の拡大よりも、モデルの深化と横展開を考えています。現在、私たちのビジネスモデルに共感してくださる地方の飲食店オーナーから「このやり方を教えてほしい」という問い合わせが増えているんです。そこで来年から、生産者とのマッチングプラットフォーム事業を開始します。私たちが培ってきた生産者ネットワークとノウハウを、他の飲食店にも提供するんです。フランチャイズではなく、地域ごとに独立した飲食店が同じ理念で繋がるコミュニティを作りたいと考えています。
編集部
最後に、西川社長が目指す飲食業界の未来像を聞かせてください。
西川社長
食を通じて、都市と地方、生産者と消費者、人と人がつながる社会を実現したいですね。効率化やグローバル化も大切ですが、その一方で失われてきた「食の背景にある物語」を取り戻したい。私たちの店で食事をしたお客様が、週末に農家さんを訪ねたり、地元の直売所で買い物をするようになったという話を聞くと、本当に嬉しくなります。10年後には、全国100都市でこのモデルが展開され、5000の生産者が持続可能な経営を実現している。そんな未来を描いています。飲食業は単なるサービス業ではなく、社会をつなぐインフラだと信じています。

私たちは料理を売っているのではない。食を通じた人と人とのつながりを創造しているんです。

── 西川社長

📝 まとめ
・大手外食チェーン出身の西川社長が、地域食材と生産者を主役にした居酒屋「郷土厨房」を展開
・各店舗で地元の生産者約200軒と年間契約を結び、適正価格での買い取りで持続可能な関係を構築
・規格外野菜の積極活用や従業員の農家研修など、サステナビリティを経営の根幹に据えた取り組み
・来年から生産者マッチングプラットフォーム事業を開始し、ビジネスモデルの横展開を目指す

🏢企業情報

会社名 株式会社郷土厨房
業種 飲食・フード
役職 代表取締役社長
代表者 西川 健太郎
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