サイバー攻撃の脅威が増す中、従来の暗号化技術では守れない時代が到来しつつある。量子力学の原理を応用した次世代暗号通信システムで、金融・医療・防衛分野のセキュリティ革命を牽引する藤崎CEOに、その戦略と展望を聞いた。
量子暗号通信という選択
編集部
クオンタムリンクを創業されたきっかけを教えてください。
藤崎CEO
私は元々、大手通信キャリアで研究開発に従事していました。そこで感じたのは、現在の暗号技術は計算量的安全性に依存しており、量子コンピュータの実用化によって根底から崩れる可能性があるということです。2019年にGoogleが「量子超越性」を実証したニュースを見たとき、これは10年後の話ではなく、今すぐ備えるべき課題だと確信しました。そこで、理論物理学を専門とする共同創業者の村井と共に、2020年に起業を決意したんです。
編集部
量子暗号通信とは、具体的にどのような技術なのでしょうか。
藤崎CEO
簡単に言えば、量子力学の「観測すると状態が変わる」という性質を利用した、理論上解読不可能な暗号通信技術です。従来の暗号は複雑な数式を使って暗号化しますが、計算能力が上がれば解読される可能性があります。一方、量子暗号は物理法則そのものがセキュリティを保証します。誰かが通信を盗聴しようとすると、その瞬間に量子状態が変化するため、盗聴行為を確実に検知できるのです。
編集部
技術的なハードルはどのように乗り越えてこられたのですか。
藤崎CEO
最大の課題は「距離の壁」でした。量子状態は非常に脆弱で、従来は数十キロメートルしか伝送できませんでした。私たちは量子中継技術と誤り訂正アルゴリズムを独自開発し、現在では最大200キロメートルの伝送に成功しています。また、既存の光ファイバー網を活用できる設計にしたことで、インフラ構築コストを大幅に削減できました。大学の研究室や国の研究機関とも連携し、3年間で基本特許を12件取得しています。
量子暗号は物理法則そのものがセキュリティを保証する。これが最大の強みです
── 藤崎CEO
市場戦略と顧客開拓
編集部
どのような業界をターゲットにされているのでしょうか。
藤崎CEO
現在は金融、医療、防衛の3分野に注力しています。特に金融機関は、顧客資産や取引情報を扱うため、セキュリティ要求が極めて高い。実際、大手都市銀行2行とPoC(概念実証)を進めており、来年度中の本格導入を目指しています。医療分野では、個人の遺伝情報や医療データの保護が重要課題です。防衛分野については詳細は言えませんが、政府関係機関からの引き合いも増えています。
編集部
価格面での競争力はいかがですか。従来のセキュリティシステムと比べてコストは高いのでは。
藤崎CEO
確かに初期導入コストは従来システムの1.5倍から2倍程度になります。しかし、長期的なリスクコストを考えれば圧倒的に安いのです。例えば、大規模な情報漏洩が起きれば、企業は数百億円規模の損失を被る可能性があります。そのリスクを物理法則レベルで防げるなら、投資対効果は十分にあると考えています。また、量産効果とアルゴリズム最適化により、今後3年でコストを半分にする計画です。
編集部
海外展開についてはどのようにお考えですか。
藤崎CEO
グローバル展開は必須だと考えています。実は昨年、シンガポールとドバイに拠点を開設しました。特にアジア・中東地域は、スマートシティ構想が進んでおり、最初から高セキュリティインフラを組み込む絶好の機会です。欧米市場については、現地のサイバーセキュリティ企業との協業を模索中です。日本発の技術で世界標準を取りに行く——これが私たちの目標です。
編集部
競合他社との差別化ポイントは何でしょうか。
藤崎CEO
技術的優位性はもちろんですが、「実装力」が最大の差別化要因だと思っています。量子技術の研究をしている企業や大学は世界中にありますが、実際に商用レベルで動くシステムを提供できるところは限られています。私たちはハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク設計まで一気通貫で手がけられる体制を構築しました。また、24時間365日の運用監視サービスも提供しており、「研究成果」ではなく「使えるソリューション」を届けることにこだわっています。
技術だけでなく、実装力こそが真の差別化。使えるソリューションを届けたい
── 藤崎CEO
組織づくりと今後のビジョン
編集部
現在の組織体制と、どのような人材を求めているか教えてください。
藤崎CEO
現在、社員数は約80名です。内訳は、研究開発が40名、エンジニアリングが25名、営業・マーケティングが15名という構成です。量子物理学者、暗号理論の専門家、ネットワークエンジニアという異なる専門性を持つ人材が協働する文化を大切にしています。求める人材像は、専門性の高さはもちろんですが、異分野の知見を謙虚に学べる姿勢を持った方ですね。量子技術は学際的な分野なので、一人で完結することはありません。
編集部
採用や育成で工夫されていることはありますか。
藤崎CEO
一つは、「20%ルール」を導入していることです。業務時間の20%を自分の関心あるテーマの研究に使える制度で、これがイノベーションの源泉になっています。また、海外の学会参加やトップ研究機関との交流を積極的に支援しています。給与水準も、大手IT企業と遜色ないレベルを確保し、ストックオプションも充実させています。優秀な人材なくして技術革新はありえませんから。
編集部
資金調達の状況と、今後の成長戦略をお聞かせください。
藤崎CEO
これまでにシリーズBまで完了し、累計で約35億円を調達しました。投資家には大手VCのほか、事業会社からの戦略投資も含まれています。今後3年間で売上高50億円、5年後に100億円超を目指しています。成長戦略としては、まず国内での実績を積み上げ、その後アジア・中東への本格展開を図ります。また、量子暗号以外の量子技術、例えば量子センシングなどへの横展開も視野に入れています。
編集部
最後に、藤崎CEOが実現したい未来像を教えてください。
藤崎CEO
「量子技術が社会インフラの当たり前になる世界」を作りたいですね。今、私たちは電気や水道を当然のように使っていますが、量子セキュリティもそうなるべきだと思うんです。個人のプライバシーも、企業の機密情報も、国家の安全保障も、すべて量子技術で守られている——そんな社会を10年以内に実現したい。そしてそれを、日本発の技術で成し遂げることに大きな意義があると信じています。テクノロジーは人を幸せにするためにある。その原点を忘れず、社会に貢献できる企業であり続けたいと思います。
量子技術が社会インフラの当たり前になる世界を、日本発の技術で実現したい
── 藤崎CEO
まとめ
・量子力学の原理を応用した解読不可能な暗号通信システムを開発、200kmの長距離伝送に成功
・金融・医療・防衛分野をターゲットに、大手都市銀行との本格導入を来年度に控える
・シンガポール・ドバイに拠点開設、実装力を武器にグローバル市場での世界標準を目指す
・累計35億円を調達し、5年後売上100億円超を目標に、量子技術の社会インフラ化を推進
・金融・医療・防衛分野をターゲットに、大手都市銀行との本格導入を来年度に控える
・シンガポール・ドバイに拠点開設、実装力を武器にグローバル市場での世界標準を目指す
・累計35億円を調達し、5年後売上100億円超を目標に、量子技術の社会インフラ化を推進
企業情報
| 会社名 | 株式会社クオンタムリンク |
|---|---|
| 業種 | IT・テクノロジー |
| 役職 | 代表取締役CEO |
| 代表者 | 藤崎 健吾 |