面接官の主観を排除し、データで人材を可視化する
「面接でいい印象だったのに、入社後のパフォーマンスが期待値に届かない」――多くの企業が抱えるこの課題に、テクノロジーで挑むのが株式会社タレントアルゴリズムだ。同社が提供するAI面接解析プラットフォーム「TalentLens」は、面接時の発話内容、表情、声のトーンなどを多角的に分析し、候補者の行動特性やコンピテンシーを数値化する。
「従来の面接は面接官の経験や勘に依存する部分が大きく、評価基準のブレが生じやすい構造的な問題がありました。私たちは過去20万件以上の面接データと入社後のパフォーマンスデータを機械学習で分析し、採用成功の予測精度を従来比で67%向上させることに成功しています」と、代表取締役CEOの森川慎太郎氏は語る。
同社は2019年の創業以来、大手企業を中心に導入企業数は320社を超え、年間の面接解析件数は12万件に達する。特に新卒採用においては、内定辞退率を平均34%削減し、入社後3年以内の離職率を42%低減させるなど、具体的な成果を上げている。
行動特性データベースが実現する科学的マッチング
TalentLensの核となるのが、独自開発の「行動特性データベース(Behavioral Trait Database)」だ。このデータベースには、職種別・業界別に細分化された24種類のコンピテンシー項目と、156のサブ指標が格納されている。
「例えば営業職であれば、『顧客志向性』『粘り強さ』『ストレス耐性』などの指標が重要になりますが、SaaS営業と保険営業では求められる特性のウェイトが異なります。私たちのシステムは、各企業のハイパフォーマー分析を通じて、その企業固有の成功パターンを学習し、カスタマイズされた評価モデルを構築します」
実際の面接では、候補者がオンラインまたは対面で行う構造化面接を録画・録音し、AIがリアルタイムで分析。発話内容のテキスト解析に加え、表情認識技術で微細な感情の変化を捉え、音声解析で自信度や誠実性の指標を抽出する。これらのデータを統合し、各コンピテンシー項目のスコアとして可視化される仕組みだ。
「重要なのは、AIが人間の判断を代替するのではなく、意思決定を支援するという位置づけです。最終的な採用判断は人間が行いますが、データによる客観的な裏付けがあることで、面接官の心理的負担も軽減され、より自信を持った採用ができるようになります」と森川氏は強調する。
リファレンスチェック自動化で採用スピードを3倍に
同社は2023年に新機能として「AutoReference」をリリースした。これは従来手作業で行われていたリファレンスチェックを自動化・効率化するサービスだ。
「中途採用市場では優秀な人材ほど複数社から内定を得ており、採用スピードが競争力の鍵になります。しかし従来のリファレンスチェックは、前職の上司や同僚へのヒアリングに1週間から10日程度かかり、選考プロセスのボトルネックになっていました」
AutoReferenceでは、候補者の同意のもと、過去の職場での評価データ、プロジェクト実績、360度フィードバックなどをブロックチェーン技術で安全に収集・検証。平均2営業日でリファレンスレポートを生成する。これにより採用リードタイムを平均38日から12日に短縮することが可能になった。
データの民主化が進むことで、大企業だけでなく中小企業やスタートアップも科学的な採用手法にアクセスできる。それが日本全体の採用品質を底上げし、労働市場の流動性を高めることにつながると信じています。
森川慎太郎氏
現在、同サービスの利用企業は180社を超え、登録されたリファレンス提供者は2万人を突破している。
オンボーディング支援で定着率向上へ
採用後の課題にも目を向ける同社は、2024年からオンボーディング支援機能の提供を開始した。入社前の特性データと入社後の行動ログを連携させ、新入社員一人ひとりに最適化された育成プランを自動生成する。
「採用は『入社がゴール』ではありません。入社後に活躍し、定着してこそ採用ROIが実現します。私たちのデータによれば、入社後最初の90日間のオンボーディング体験が、その後の定着率に最も強く影響します」
具体的には、面接時に測定された学習スタイルやコミュニケーション特性に基づいて、OJT担当者との相性を分析したり、メンタリングの頻度や方法を提案したりする。導入企業では、入社後6ヶ月時点でのエンゲージメントスコアが平均23ポイント向上したという。
「HRテック市場は年率15%で成長していますが、まだ採用業務全体のデジタル化率は28%程度にとどまっています。特に中小企業では紙やExcelでの管理が主流です。私たちは今後、より小規模な企業でも導入しやすいSaaSプランを拡充し、市場の裾野を広げていきます」
グローバル展開と次世代技術への投資
国内での実績を基に、同社は2024年後半からアジア市場への展開を本格化させる。シンガポールに地域統括拠点を設立し、まずは英語圏での多言語対応版をリリースする予定だ。
「アジア太平洋地域のHRテック市場は、2030年までに1兆2000億円規模に成長すると予測されています。特にインドやベトナムなど、急速に経済成長している国々では、採用ニーズが爆発的に増加しており、大きなビジネスチャンスがあります」
技術面では、生成AIを活用した面接質問の自動生成機能や、メタバース面接での行動分析など、次世代機能の開発に年間3億円を投資している。
「採用は企業の競争力の源泉です。テクノロジーの力で、すべての企業が優秀な人材と出会い、人材がその能力を最大限発揮できる環境を作る。それが私たちのミッションです」と森川氏は展望を語った。
データとアルゴリズムが人材と企業の出会いを最適化する時代。同社の挑戦は、日本の採用市場に新たなスタンダードをもたらそうとしている。