AIとセンシング技術で果樹栽培を革新する「フルーツテック」の挑戦
農業・食農テック

AIとセンシング技術で果樹栽培を革新する「フルーツテック」の挑戦

果樹農家の「勘と経験」を可視化し、次世代に継承する

株式会社アグリセンス・ジャパン

村上 健太郎
代表取締役CEO 村上 健太郎 株式会社アグリセンス・ジャパン

高齢化が進む果樹栽培の現場に、独自開発のセンサーとAI診断システムを導入。収量予測精度90%超を実現し、農家の所得向上と技術継承の両立を目指す。

果樹栽培特化型センシングシステムの開発背景

編集部
村上CEOは大手IT企業出身と伺っていますが、なぜ果樹農業の分野に参入されたのでしょうか。
村上CEO
前職ではAIを活用した画像解析システムの開発に携わっていました。あるとき、実家のある山梨県で桃農家を営む叔父から「後継者がいなくて困っている。自分の技術を誰かに伝えたいが、言葉では説明できない」という話を聞いたんです。実際に農園を手伝ってみると、熟練農家の判断は本当に繊細で、土の湿り具合や葉の色、果実の微妙な変化から最適な管理をしている。これをデータ化できれば、技術継承の問題を解決できると確信しました。
編集部
果樹栽培に特化した理由は何でしょうか。
村上CEO
日本の農業テックは水稲や施設園芸が中心ですが、果樹は市場規模が大きいのに技術革新が遅れている分野なんです。りんご、みかん、桃、ぶどうなど、日本の果樹栽培面積は約20万ヘクタールあり、生産額は年間約8,000億円。しかし農家の平均年齢は70歳近く、10年後には生産量が半減するという試算もあります。一方で、果樹は高単価で収益性が高く、データ活用による改善効果も大きい。ここに大きなビジネスチャンスがあると判断しました。
編集部
御社のシステムの特徴を教えてください。
村上CEO
私たちが開発した「FruitSense」は、樹木に取り付ける小型センサーと、ドローンによる空撮画像、そしてAI解析を組み合わせた統合システムです。土壌水分、気温、湿度、日射量といった環境データに加えて、樹液の流量、枝の太さの変化まで測定します。さらにドローンで撮影した果実の画像から、個数、大きさ、色づき具合をAIが自動判定。これらのデータを統合分析することで、収穫時期の予測、最適な摘果のタイミング、病害虫のリスク予測などを農家にアドバイスします。精度は従来の経験則と比べて収量予測で92%、最適収穫日の予測で±2日以内を実現しています。

熟練農家の「勘と経験」は、実はデータの集積。それを可視化すれば誰でも高品質な果実を作れる

── 村上CEO

農家との二人三脚で進めるシステム開発

編集部
開発段階での苦労はありましたか。
村上CEO
最初の2年間は本当に大変でした。エンジニア目線で「便利な機能」を詰め込んだプロトタイプを作って農家に提案したんですが、「使い方が複雑すぎる」「スマホの操作に慣れていない」と全く受け入れてもらえなかったんです。高齢の農家さんは朝4時から農作業を始めて、夕方にはクタクタ。そこにデータ入力やアプリ操作を求めても無理がある。私たち自身が農園で働きながら、農家の動線や作業の流れを徹底的に観察し、「センサーを設置したら、あとはスマホで結果を見るだけ」というシンプルな設計に作り直しました。
編集部
農家の方々との信頼関係構築はどのように?
村上CEO
これは時間をかけるしかありませんでした。私自身、創業1年目は週の半分を山梨の農園で過ごし、剪定、摘果、袋かけなど、すべての作業を一緒にやらせてもらいました。最初は「都会から来た若造が何を言ってるんだ」という冷ややかな目で見られましたが(笑)、真剣に農業を学ぶ姿勢を見せることで、少しずつ「本気なんだな」と認めてもらえた。今では協力農家が50軒を超え、彼らが新しい機能のアイデアを提案してくれるまでになりました。「こういうデータが見られたら助かる」という現場の声を製品に反映できる体制が、私たちの強みです。
編集部
実際の導入効果はいかがでしょうか。
村上CEO
山梨県で桃を栽培する協力農家のデータでは、システム導入3年目で収量が15%増加、秀品率が25%向上しました。特に効果が大きかったのが摘果作業の最適化です。従来は経験に頼って「なんとなく」間引いていた果実を、AIが樹勢や日照条件を考慮して「この枝は3個、この枝は2個」と具体的に指示。結果として、すべての果実に均等に養分が行き渡り、大玉で糖度の高い桃が収穫できるようになりました。この農家さんは市場での評価が上がり、販売単価が1個あたり平均50円アップ。年間所得が約180万円増加したと喜んでいただいています。

データは農家を縛るものじゃない。むしろ自信を持って判断するための「味方」なんです

── 村上CEO

技術継承と海外展開への展望

編集部
今後の事業展開について教えてください。
村上CEO
大きく3つの柱を考えています。1つ目は対応品目の拡大。現在は桃、りんご、ぶどうが中心ですが、柑橘類、梨、さくらんぼなどにも展開します。2つ目は「匠の技術データベース」の構築。全国の優秀な果樹農家の栽培データを集積し、AIに学習させることで、その地域の気候や土壌に最適な栽培ノウハウを提供するプラットフォームを作ります。新規就農者や若手農家が、ベテランの技術を「データ」として学べる仕組みです。
編集部
3つ目の柱は?
村上CEO
海外市場への展開です。日本の果実は品質の高さで世界的に評価されていますが、栽培技術の輸出はまだ進んでいません。特にアジア諸国では経済成長に伴い高品質フルーツの需要が急増しており、日本式の栽培技術へのニーズが非常に高い。すでに台湾、タイの果樹農家と実証実験を始めていて、現地の気候データを学習させたシステムを提供予定です。将来的には「日本の果樹栽培技術×AIシステム」のパッケージ輸出を目指しています。
編集部
技術継承という社会課題の解決に向けて、どんなビジョンをお持ちですか。
村上CEO
私たちのミッションは「100年続く果樹農業の実現」です。高齢化と後継者不足は深刻ですが、逆に言えば、技術さえ継承できれば日本の果樹栽培には大きな可能性がある。データとAIによって栽培技術を「見える化」「標準化」することで、新規参入のハードルを下げ、若い世代が「農業は稼げる、カッコいい仕事だ」と感じられる環境を作りたい。同時に、ベテラン農家の長年の経験と勘を「デジタル資産」として後世に残すことで、日本の農業技術を世界に誇れる文化遺産にしていく。それが私たちの目指す未来です。
編集部
最後に、農業・食農テック業界を目指す若い世代へメッセージをお願いします。
村上CEO
農業テックの世界は、まだまだ「余白」だらけです。テクノロジーで解決できる課題が山ほどあり、同時に農家という素晴らしいパートナーがいる。重要なのは、最新技術を持ち込むことではなく、農家の課題を本気で理解しようとする姿勢です。泥だらけになって、一緒に汗を流して、初めて見えてくる課題がある。そこにこそ、本当のイノベーションの種があります。農業は「古い産業」ではなく、「これから最も変わっていく産業」。ぜひ一緒に、日本の農業を次のステージに引き上げていきましょう。

農業は「古い産業」ではなく、「これから最も変わっていく産業」。ここにこそイノベーションのチャンスがある

── 村上CEO
📝 まとめ
・果樹栽培特化型のセンシング×AI診断システムで、収量予測精度92%を実現
・農家と二人三脚の開発体制により、現場で本当に使える製品を追求
・導入農家では収量15%増、秀品率25%向上、年間所得180万円増の実績
・「匠の技術データベース」構築により、ベテランの栽培ノウハウを次世代に継承
・アジア市場への展開を見据え、日本式果樹栽培技術のグローバル展開を推進

🏢企業情報

会社名 株式会社アグリセンス・ジャパン
業種 農業・食農テック
役職 代表取締役CEO
代表者 村上 健太郎
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