地方百貨店の逆襲、オムニチャネル戦略で売上高120億円達成への軌跡
流通・小売・EC

地方百貨店の逆襲、オムニチャネル戦略で売上高120億円達成への軌跡

地方百貨店こそデジタル化で勝機あり

株式会社北陸マルイチ

田中 宏樹
代表取締役社長 田中 宏樹 株式会社北陸マルイチ

創業68年の老舗百貨店がECとリアル店舗の融合に挑戦。地方都市での新しい小売モデルを構築し、3年で売上を1.4倍に成長させた戦略とは。

地方百貨店存続の危機から始まった改革

金沢市の中心部に本店を構える株式会社北陸マルイチは、創業68年の歴史を持つ地方百貨店だ。しかし、5年前には売上高が85億円まで落ち込み、経営危機に瀕していた。田中宏樹社長が就任したのは、まさにその転換点だった。

「就任当時、既存顧客の平均年齢は62歳。このままでは10年後に店は存在しないと確信しました」と田中社長は振り返る。百貨店業界全体が苦境に立たされる中、地方百貨店の廃業が相次いでいた時期だ。田中社長は就任直後からオムニチャネル戦略の導入を決断し、デジタルとリアルの融合による新しい百貨店モデルの構築に着手した。

最初に取り組んだのは、全社員へのデジタル教育だった。当時、EC部門はわずか3名。店舗スタッフの多くはスマートフォンの操作さえ不慣れな状況だった。外部からデジタルマーケティングの専門家を招聘し、半年間の集中研修を実施。同時に、ECサイトの全面リニューアルと、基幹系システムの刷新に約2億円を投資した。

独自のライブコマース戦略で若年層を獲得

北陸マルイチの転機となったのが、2021年に本格導入したライブコマースだ。しかし、単なるオンライン販売ではない。店舗の販売スタッフが実際に商品を紹介し、視聴者とリアルタイムでコミュニケーションを取る仕組みを構築した。

「百貨店の最大の資産は、商品知識と接客スキルを持つ販売員です。この強みをオンラインでも活かせないかと考えました」と田中社長は語る。各フロアのベテラン販売員をライブコマーサーとして育成し、週に20回以上の配信を実施。コスメ、ファッション、食品など、カテゴリーごとに専門スタッフが出演する体制を整えた。

結果は予想以上だった。ライブコマースでの月間流通総額は初月の300万円から、現在では2,800万円まで成長。視聴者の平均年齢は38歳と、従来の顧客層より20歳以上若い層にリーチすることに成功した。さらに、顧客単価は店舗購入の1.3倍の12,000円を記録している。

デジタルは若者だけのものではありません。60代の既存顧客も、信頼できる販売員が画面に出てくるライブコマースには強い関心を示してくれました。年齢を問わず、人と人とのつながりを求めているんです。

田中宏樹社長

店舗を「体験の場」に再定義

オンライン強化と並行して、田中社長は店舗の役割を根本から見直した。従来の「商品を陳列して売る場所」から、「体験を提供する場所」への転換だ。

まず実施したのが、各フロアへの体験型コンテンツの導入だった。コスメフロアにはプロのメイクアップアーティストによる無料相談コーナーを常設。ファッションフロアには、AIを活用したバーチャルフィッティングシステムを導入し、自分の体型に合った服を瞬時に提案できるようにした。食品フロアでは、地元食材を使った料理教室を月に8回開催し、購買につなげている。

さらに、店舗とECの在庫統合管理システムを構築。店舗で商品が品切れの場合、その場でECサイトから注文し、翌日自宅に配送するサービスを開始した。逆に、ECで購入した商品を店舗で受け取れるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)も導入。店舗受け取りの利用率は全EC注文の42%に達し、来店時の追加購買率は68%を記録している。

「店舗に来る理由を作ることが重要です。商品を買うだけならオンラインで十分。でも、人と会って相談したい、実際に試したいというニーズは決してなくなりません」と田中社長は強調する。

データドリブンな経営で収益性を向上

北陸マルイチの改革を支えているのが、徹底したデータ分析だ。顧客のオンライン・オフラインの行動データを統合し、CRM(顧客関係管理)システムで一元管理。約15万人の会員データから、購買傾向や嗜好を分析している。

このデータを基に、個別化されたパーソナライゼーション施策を展開。メールマガジンの開封率は業界平均の2.1倍の23%、クリック率は4.8倍の8.2%を達成している。また、休眠顧客に対しては、過去の購買履歴から興味がありそうな商品を予測し、限定クーポンとともにアプローチ。休眠顧客の再活性化率は28%に達している。

在庫管理も大きく改善した。AIによる需要予測システムを導入し、在庫回転率を従来の年4.2回から6.8回に向上。過剰在庫による値引きロスを年間で約8,000万円削減することに成功した。「データに基づく意思決定が、属人的な経営から脱却するカギでした」と田中社長は語る。

さらに、地域の中小小売店との連携も開始。北陸マルイチのECプラットフォームを開放し、地元の専門店が出店できるマーケットプレイス機能を追加した。現在38店舗が出店し、地域全体のEC化を推進。手数料収入も新たな収益源となっている。

次なる挑戦はサステナビリティとコミュニティ形成

売上高120億円を達成した今、田中社長の視線は次の目標に向いている。それがサステナビリティコミュニティ形成だ。

「単に商品を売るだけでは、大手ECモールに勝てません。地域に根ざした百貨店だからこそできることを追求したい」。その一環として、サステナブル商品の専門フロアを新設。環境配慮型の商品を集め、商品のライフサイクル全体でのCO2排出量を表示する取り組みを開始した。また、不要になった衣類を回収し、リサイクルやリユースを促進するサーキュラーエコノミーの仕組みも構築中だ。

コミュニティ形成では、会員向けのオンラインサロンを開設。ファッション、美容、食など、テーマごとに専門家や同じ興味を持つ顧客同士が交流できる場を提供している。月額500円の有料サービスだが、既に2,300名が参加。サロン会員の年間購買額は一般会員の2.4倍に達している。

「百貨店は地域のインフラであり、文化の発信地でもあります。商品を売るだけでなく、人々の暮らしを豊かにし、つながりを生み出す存在でありたい」と田中社長は展望を語る。今後は、店舗を活用したコワーキングスペースの展開や、地元クリエイターの作品を販売するD2C支援プログラムなども計画している。

地方百貨店の逆襲は、まだ始まったばかりだ。北陸マルイチの挑戦は、全国の地方小売業に新たな可能性を示している。

📝 まとめ
・創業68年の地方百貨店が経営危機からオムニチャネル戦略で3年で売上1.4倍の120億円を達成
・ライブコマースで若年層を獲得、月間流通総額2,800万円、顧客単価は店舗の1.3倍に
・店舗を「体験の場」に再定義、BOPIS利用率42%、来店時追加購買率68%を記録
・データ分析とCRMで在庫回転率を年4.2回から6.8回に改善、値引きロス8,000万円削減
・サステナビリティとコミュニティ形成を軸に、地域インフラとしての百貨店の新モデルを構築中

🏢企業情報

会社名 株式会社北陸マルイチ
業種 流通・小売・EC
役職 代表取締役社長
代表者 田中 宏樹
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