従来の資金提供とアドバイスに留まらず、自社にエンジニアとデザイナーを抱え、投資先のプロダクト開発に直接参画する。創業3年で15社に投資し、8割以上が次ラウンド調達に成功した実働型VCの戦略に迫る。
投資先のプロダクト開発に直接参画する理由
編集部
御社は「実働型VC」という独自のポジションを打ち出されていますが、このモデルを始めたきっかけを教えてください。
三浦CEO
私自身、以前はスタートアップでCTOをしていた経験があり、シード期の起業家が最も困るのは「資金」よりも「手を動かせる人材」だと痛感していました。アイデアはあるけれど技術的に実現できない、デザインのクオリティが上がらない、そういった課題に直面している創業者は本当に多いんです。従来のVCは資金と助言を提供しますが、実際にコードを書いたりデザインを仕上げたりはしません。そこに大きなギャップを感じて、自社にエンジニアとデザイナーのチームを持つVCを立ち上げました。
編集部
具体的にはどのような支援体制を構築されているのでしょうか。
三浦CEO
現在、社内にフルタイムのエンジニア6名、デザイナー3名、そしてPdM経験者2名が在籍しています。投資実行後、投資先企業のニーズに応じて、これらのメンバーを週2〜3日程度アサインし、実際にプロダクト開発に入り込みます。例えば、MVP開発のスピードアップ、技術的負債の解消、UXの抜本的改善などですね。平均して3〜6ヶ月間、集中的に関わることで、投資先のプロダクトを「投資可能な次のステージ」まで引き上げることを目指しています。
編集部
そのモデルだと、同時に支援できる企業数に限界が出ませんか。
三浦CEO
おっしゃる通りです。だからこそ私たちは年間の投資社数を4〜5社に絞っています。一般的なシードVCが年間10〜20社に投資するのとは対照的ですが、私たちは「広く浅く」ではなく「狭く深く」関わることで、投資先の成功確率を高めることを優先しています。実際、これまで投資した15社のうち13社が次のラウンドで資金調達に成功しており、この数字には自信を持っています。
シード期の起業家が最も困るのは「資金」よりも「手を動かせる人材」です
── 三浦CEO
ファンド運営と収益モデルの工夫
編集部
実働型のモデルは魅力的ですが、コスト構造が通常のVCと大きく異なりますよね。ファンド運営はどのように成立させているのでしょうか。
三浦CEO
確かに人件費は通常のVCより高くなります。ただ、私たちは管理報酬を一般的な2%よりやや高めの2.5%に設定させていただき、LPの皆様にはその分、実働支援による投資先のバリューアップで還元する方針を説明しています。また、投資先企業から技術支援の対価として少額のフィーをいただくケースもあります。これは投資契約とは別建てで、あくまで実費ベースですが、ファンドの持続可能性を高める工夫の一つです。
編集部
LPからの反応はいかがですか。
三浦CEO
1号ファンドの立ち上げ時は正直苦労しました。「それはVCなのかコンサルなのか」と問われたこともあります。ただ、ポートフォリオ企業の成長実績を示せるようになってからは、むしろ「こういう支援こそスタートアップに必要だ」と共感してくださる事業会社やCVCからの出資が増えました。2号ファンドは1号の2倍の規模で組成できましたし、3号の準備も進めています。LPの中には自社の新規事業と投資先のマッチングを期待される方もいて、エコシステム全体での価値創造につながっています。
編集部
投資先選定では、どのような基準を重視されていますか。
三浦CEO
最も重視するのは「プロダクトへの本気度」です。市場規模やビジネスモデルはもちろん見ますが、創業者が本当に良いプロダクトを作りたいと思っているか、ユーザーに向き合っているか、そこを徹底的に見ます。というのも、私たちはプロダクト開発に深く入り込むので、創業者との相性や価値観の一致が非常に重要なんです。また、技術的な課題が明確で、私たちの支援が具体的な価値を生み出せる領域かどうかも判断基準になります。SaaSやコンシューマー向けWebサービスが中心ですが、最近はハードウェアスタートアップの案件も検討しています。
スタートアップエコシステムの未来と目指す姿
編集部
日本のスタートアップ環境について、VCの立場からどう見ていらっしゃいますか。
三浦CEO
資金調達環境は確実に改善しています。ただ、「お金は集まるけど人が足りない」という課題は深刻化していると感じます。特にシード期のスタートアップは、優秀なエンジニアやデザイナーを採用する資金力も知名度もありません。大企業との報酬格差も大きい。この「人材ギャップ」を埋めることが、日本のスタートアップエコシステムの次の課題だと思います。私たちの実働型モデルは一つの解決策ですが、これがスタンダードになるとは思っていません。むしろ多様な支援の形が生まれることが重要です。
編集部
御社自身の今後の展開について教えてください。
三浦CEO
短期的には2号ファンドからの投資実行と、ポートフォリオ企業のイグジット創出に集中します。中長期的には、「スタートアップ支援のインフラ」になりたいと考えています。例えば、私たちが培ったプロダクト開発のノウハウをプラットフォーム化して、他のVCや支援機関にも提供できないか検討しています。また、エンジニアやデザイナーが「VCで働く」という新しいキャリアパスを確立したい。投資先で経験を積み、その後独立する人も出てきています。そういった人材の循環も含めて、エコシステム全体に貢献できる存在を目指しています。
編集部
最後に、これから起業を考えている方や、資金調達を検討しているスタートアップへメッセージをお願いします。
三浦CEO
「作りたいものを作る覚悟」を持ってほしいですね。調達額やバリュエーションがニュースになる時代ですが、本質はプロダクトの価値です。ユーザーが本当に必要とするものを、徹底的に磨き上げる。そのためには泥臭く手を動かし続ける必要があります。私たちはその過程を一緒に走るパートナーでありたいと思っています。資金だけでなく、「一緒に作る仲間」を求めている起業家の方がいれば、ぜひ声をかけてください。まだまだ小さなファンドですが、本気でプロダクトと向き合う起業家を全力で支援します。
日本のスタートアップの次の課題は「人材ギャップ」を埋めること。多様な支援の形が必要です
── 三浦CEO
まとめ
・自社にエンジニア・デザイナーを抱え、投資先のプロダクト開発に直接参画する「実働型VC」モデルを展開
・年間投資社数を4〜5社に絞り、3〜6ヶ月間集中的に支援。15社中13社が次ラウンド調達成功という高い成功率
・管理報酬2.5%と投資先からの技術支援フィーで、通常より高いコスト構造を維持しながらファンド運営を実現
・日本のスタートアップ最大の課題は「人材ギャップ」。資金調達環境は改善も、優秀な人材確保が困難に
・年間投資社数を4〜5社に絞り、3〜6ヶ月間集中的に支援。15社中13社が次ラウンド調達成功という高い成功率
・管理報酬2.5%と投資先からの技術支援フィーで、通常より高いコスト構造を維持しながらファンド運営を実現
・日本のスタートアップ最大の課題は「人材ギャップ」。資金調達環境は改善も、優秀な人材確保が困難に
企業情報
| 会社名 | 株式会社シナジーベンチャーズ |
|---|---|
| 業種 | スタートアップ・VC |
| 役職 | 代表取締役CEO |
| 代表者 | 三浦 健吾 |