不登校や学習困難を抱える子どもたちに、オンラインとリアルを融合した個別最適な学びの場を提供。心理学とテクノロジーで「自己肯定感」を育むプラットフォームの挑戦。
不登校支援から生まれた教育プラットフォーム
編集部
まず、ラーニングコンパスを立ち上げた経緯をお聞かせください。
木村CEO
私自身、中学時代に不登校を経験しています。当時は「学校に行けない自分はダメだ」という自己否定感に苦しみました。その後、フリースクールとの出会いで自分のペースで学ぶ楽しさを知り、教育心理学を学んで教育業界に入りました。大手EdTech企業でプロダクトマネージャーを務める中で、既存のオンライン教材では救えない子どもたちがたくさんいると実感したんです。特に不登校や発達特性のある子どもたちは、画一的なカリキュラムでは学習意欲が湧きにくい。そこで2020年に起業し、一人ひとりの興味関心と学習特性に合わせた「パーソナライズド・ラーニング・プラットフォーム」を開発しました。
編集部
具体的にどのようなサービスなのでしょうか。
木村CEO
主軸は3つあります。1つ目はAI診断による学習特性の可視化です。認知特性、集中力のパターン、興味分野などを多角的に分析し、最適な教材と学習方法を提案します。2つ目は興味ベースのプロジェクト学習。例えば「恐竜が好き」という子には、恐竜を起点に地学、歴史、英語まで横断的に学べるカリキュラムを組みます。3つ目はメンター制度です。現役大学生や社会人が「学習コーチ」として伴走し、学習計画だけでなく心理的サポートも行います。現在、全国で約1,200名の小中高生が利用しており、その7割が不登校または不登校傾向のある子どもたちです。
編集部
従来のオンライン学習サービスとの最大の違いは何ですか。
木村CEO
「正解を教える」のではなく「学びたい気持ちを引き出す」設計です。多くのEdTechサービスは効率的な知識習得を目指しますが、私たちは「自己効力感」と「学習への内発的動機づけ」を最優先にしています。例えば、間違えても叱られない、自分のペースで何度でもやり直せる、小さな達成を可視化して承認する。こうした心理的安全性がベースにあって初めて、学習効果が生まれると考えています。実際、利用開始3ヶ月後の調査では、85%の子どもが「学ぶことが楽しくなった」と回答してくれました。
効率より先に、まず「学びたい」という気持ちを取り戻すこと。それが私たちの最優先ミッションです。
── 木村CEO
テクノロジーと人間の伴走のハイブリッド設計
編集部
AI診断の精度や信頼性についてはいかがでしょうか。
木村CEO
当社のAIは、教育心理学の知見をベースに、約3万人分の学習データから構築しています。ただし、AIはあくまで「仮説提示」であり、最終判断は人間が行う設計です。診断結果を基にメンターが保護者・本人と面談し、実際の生活リズムや家庭環境も考慮してカリキュラムを調整します。テクノロジーだけでは絶対に不十分で、人間の共感力や柔軟性が不可欠なんです。特に心に傷を抱えた子どもたちには、「この人は自分を理解してくれる」という信頼関係が学習の土台になります。
編集部
メンター育成にはどのような工夫をされていますか。
木村CEO
メンターは全員、40時間以上の研修プログラムを修了しています。内容は発達心理学、傾聴技法、非暴力コミュニケーション、LGBT理解、虐待や貧困への配慮など多岐にわたります。また月1回のスーパービジョン(指導監督)を実施し、メンター自身の精神的負担軽減にも配慮しています。メンターの多くは教育学部の学生や、自身も不登校経験者です。「かつての自分を助けたい」という思いを持った人材が集まってくれていて、離職率も低いですね。
編集部
保護者からの反応はいかがですか。
木村CEO
最初は「オンラインで本当に効果があるのか」という不安を持たれる方も多いです。でも実際に子どもが変化すると、涙を流して感謝してくださる保護者もいます。「3年間一度も笑わなかった子が、プロジェクト発表で生き生きと話した」「朝起きられなかった子が、メンターとの約束のために自分で起きるようになった」といったエピソードは数え切れません。保護者自身の罪悪感や孤独感を和らげることも、私たちの重要な役割だと考えています。保護者向けのコミュニティも運営していて、同じ悩みを持つ家族同士がつながれる場を提供しています。
子どもが変わると家族全体が変わる。それを何度も目の当たりにしてきました。
── 木村CEO
公教育との連携と今後の展望
編集部
公教育との関係性についてお聞かせください。
木村CEO
現在、全国15の自治体教育委員会と連携協定を結んでいます。不登校でも出席扱いになる「ICT等を活用した学習支援」として認定されており、私たちのプラットフォームでの学習が公的に評価される仕組みです。また一部の学校では、校内の別室登校支援にも活用いただいています。公教育を否定するのではなく、「学校+α」あるいは「学校に代わる選択肢」として、多様な学びの生態系を作ることが目標です。
編集部
EdTech市場全体での課題感はありますか。
木村CEO
「効率化」ばかりが注目され、「ウェルビーイング(幸福)」の視点が欠けているケースが多いと感じます。テストの点数を上げることも大事ですが、その過程で自己肯定感が下がっては意味がありません。また経済格差による教育格差も深刻です。私たちは自治体との協働で低所得世帯への無償提供を進めていますが、まだ十分ではありません。EdTech業界全体で、社会的インパクトと事業性を両立させるモデルを確立する必要があります。
編集部
今後の事業展開について教えてください。
木村CEO
2024年度中にリアルな居場所「ラーニングハブ」を都内3カ所に開設予定です。オンラインだけでは限界があり、実際に集まって一緒にプロジェクトに取り組んだり、ただ雑談したりする物理空間も必要だと感じています。また企業と連携したキャリア教育プログラムも開始します。実際の仕事現場を見学したり、社会人と対話することで、「何のために学ぶのか」という問いへの答えを自分で見つけてほしい。長期的には、不登校支援だけでなく、すべての子どもが自分らしく学べる「第三の学び場」として認知されることを目指しています。
編集部
最後に、同じ志を持つ起業家へメッセージをお願いします。
木村CEO
教育は成果が見えるまで時間がかかり、収益化も難しい領域です。でも一人の子どもの人生を変えられるという実感は、何物にも代えがたいものです。私自身、挫折や資金繰りの苦労も経験しましたが、子どもたちの成長を見るたびに「この仕事を選んでよかった」と心から思います。社会的意義と事業性の両立は可能です。ぜひ諦めずに、理想の教育を実現してください。
まとめ
・不登校・学習困難を抱える子どもに特化した個別最適学習プラットフォームを展開
・AI診断とメンター伴走のハイブリッド設計で、自己肯定感と学習意欲を重視
・15自治体と連携し不登校時の出席扱い認定を実現、公教育との共存モデルを構築
・2024年リアル拠点「ラーニングハブ」開設予定、オンラインとオフラインの融合へ
・AI診断とメンター伴走のハイブリッド設計で、自己肯定感と学習意欲を重視
・15自治体と連携し不登校時の出席扱い認定を実現、公教育との共存モデルを構築
・2024年リアル拠点「ラーニングハブ」開設予定、オンラインとオフラインの融合へ
企業情報
| 会社名 | 株式会社ラーニングコンパス |
|---|---|
| 業種 | 教育・EdTech |
| 役職 | 代表取締役CEO |
| 代表者 | 木村 彩花 |