eスポーツ施設運営という新市場への挑戦
2018年の創業以来、eスポーツ施設の運営に特化したビジネスを展開してきた株式会社ネクストゲームアリーナ。現在、東京、大阪、名古屋をはじめとする全国15都市で「GAME ARENA NEXUS」ブランドの施設を運営し、年間利用者数は延べ45万人を超える。藤崎健太郎社長は、大手ゲーム機器メーカーでのマーケティング経験を経て、日本におけるeスポーツインフラの未整備という課題に着目し起業した。
「当時、日本のeスポーツ市場規模はわずか5億円程度でしたが、海外では既に数百億円規模に成長していました。プレイ環境の差が、日本のプロゲーマー育成や市場拡大の障壁になっていると感じたんです」と藤崎社長は創業の経緯を語る。現在、同社が運営する施設には240Hz対応のゲーミングモニターや最新スペックのゲーミングPC、プロ仕様のゲーミングチェアを完備。1時間500円からという手頃な価格設定で、本格的なプレイ環境を提供している。
施設の特徴は、単なるプレイスペースにとどまらない点だ。配信ブースを設置し、ストリーミング配信を希望するユーザーをサポート。さらに、プロゲーミングチームの練習場所としての貸し出しや、大会運営のための専用アリーナスペースも併設している。直近の決算では売上高12億円、営業利益率18%を達成し、黒字経営を継続中だ。
eスポーツは単なる娯楽ではなく、コミュニケーションプラットフォームです。私たちが提供しているのは、同じ趣味を持つ人々が集まり、切磋琢磨できる「場」なんです。
藤崎健太郎
地方創生とeスポーツの融合モデル
同社のビジネスモデルで特筆すべきは、地方都市への積極的な出店戦略だ。通常、エンタメ施設は都市部への集中が一般的だが、ネクストゲームアリーナは全15拠点のうち9拠点を地方都市に展開している。「地方こそeスポーツ施設のニーズが高い」という藤崎社長の仮説が、この戦略の背景にある。
実際、福島県郡山市に2020年にオープンした施設は、開業初月から稼働率75%を記録。地元の高校生や大学生を中心に、週末には県外からの利用者も訪れる人気施設となった。「地方には娯楽施設が少なく、若者の居場所が限られています。eスポーツ施設は比較的小規模な投資で開設でき、かつオンラインで世界とつながれる。地方の若者にとって大きな価値を提供できるんです」
さらに、同社は地方自治体との連携にも力を入れている。長野県では県の移住促進プロジェクトに参画し、「ゲーマー移住」というユニークな切り口で20代の移住者獲得に貢献。施設を拠点に地域コミュニティが形成され、移住者の定着率向上にも寄与している。このモデルは他の自治体からも注目を集め、現在3つの自治体と連携協定を締結している。
地方施設では、収益の多角化も進めている。施設利用料に加え、地元企業とのスポンサーシップ契約、自治体からの補助金、地域イベントでの大会運営受託など、収益源は平均4つ以上。都市部の施設と比較して1拠点あたりの売上は小さいものの、営業利益率は平均22%と都市部を上回る。
プロゲーマー育成と人材ビジネスへの展開
2021年からは、eスポーツ人材の育成・マネジメント事業にも参入した。自社施設を活用したeスポーツアカデミーを開講し、プロを目指す若手ゲーマーの育成プログラムを提供している。月額2万円で週3回のコーチング、メンタルトレーニング、配信技術指導などを受けられるこのプログラムには、現在120名が在籍している。
「プロゲーマーとして成功するには、ゲームスキルだけでは不十分です。セルフブランディング、メンタルマネジメント、ビジネススキルも必要。総合的な育成プログラムを提供できるのが、私たちの強みです」と藤崎社長は説明する。実際、アカデミー出身者の中からは、既に3名がプロチームとの契約を獲得。ストリーマーとして月収100万円以上を稼ぐ卒業生も出ている。
さらに、企業向けのeスポーツ研修プログラムも開発した。チームビルディングやコミュニケーション能力向上を目的に、eスポーツのチーム戦を活用した研修を提供。大手IT企業や製造業など、15社が導入し、新たな収益の柱となっている。研修事業の売上は前年比280%増と急成長中だ。
eスポーツで培われる戦略的思考、瞬時の判断力、チームワークは、ビジネスにも直結します。エンタメ×人材育成という新しい価値を創造していきたい。
藤崎健太郎
今後の展望とIPビジネスへの挑戦
今後3年間で、施設数を現在の15拠点から30拠点へ倍増させる計画だ。特に注力するのは、大学キャンパス内への出店。既に3つの大学と協議中で、学生向けの特別プランや大学対抗戦の開催などを企画している。「学生時代からeスポーツコミュニティに参加することで、生涯にわたる趣味となり、当社施設の利用者として定着する」という長期的な顧客戦略だ。
また、2024年からは自社での大会IP開発にも着手している。「NEXUS CUP」と銘打った全国大会を年4回開催し、優勝賞金総額1000万円規模のイベントに育てる計画。既に第1回大会には全国から328チームがエントリーし、オンライン視聴者数は延べ12万人を記録した。大会の放映権販売やスポンサーシップ収入により、新たな収益源として期待されている。
さらに、海外展開も視野に入れている。まずは台湾と韓国での施設展開を検討中で、現地パートナー企業との交渉を進めている段階だ。「アジアのeスポーツ市場は今後5年で3倍に成長すると予測されています。日本で培ったノウハウを活かし、アジア全体でのプラットフォーム構築を目指したい」と藤崎社長は意欲を見せる。
eスポーツ産業は、日本では市場規模がようやく120億円を超えたばかりの成長産業だ。その中で、施設運営というリアルな接点を持ちながら、人材育成、大会運営、地域創生と多角的に事業を展開する同社のアプローチは、業界内でも独自のポジションを確立している。「ゲームを通じて人と人がつながり、新しい価値が生まれる場を創り続けたい」という藤崎社長の言葉からは、単なるビジネスを超えた社会的ミッションへの強い想いが感じられた。