水産養殖×AIで持続可能な食を実現する株式会社アクアテックイノベーション
農業・食農テック

水産養殖×AIで持続可能な食を実現する株式会社アクアテックイノベーション

陸上養殖にAI給餌システムを導入し、生産性を3倍に向上

株式会社アクアテックイノベーション

浜野 健太郎
代表取締役社長 浜野 健太郎 株式会社アクアテックイノベーション

海洋資源の枯渇が叫ばれる中、AIとIoTを活用した陸上循環式養殖システムで水産業に革命を起こす。養殖サーモンの歩留まり率95%を実現した同社の挑戦を追う。

海洋資源の危機から生まれた陸上養殖への挑戦

「日本の水産業は今、大きな転換期を迎えています」と語るのは、株式会社アクアテックイノベーション代表取締役社長の浜野健太郎氏だ。同社は陸上循環式養殖システムとAI技術を組み合わせた次世代型水産養殖プラットフォームを展開している。

浜野氏は東京海洋大学で水産学を専攻後、大手商社で水産物の国際取引に10年間従事してきた。「世界中の漁場を見て回る中で、乱獲による資源減少と、気候変動による漁獲量の不安定化を目の当たりにしました。このままでは持続可能な水産業は成り立たない。そう確信したのが起業のきっかけです」

2019年の創業以来、同社は静岡県沼津市に2,400平方メートルの陸上養殖施設を構え、主にアトランティックサーモンとトラウトサーモンの養殖を行っている。特筆すべきは、その飼料転換効率(FCR)が1.1という驚異的な数値を達成している点だ。一般的な海面養殖のFCRが1.3〜1.5であることを考えると、その効率性の高さが際立つ。

AI給餌システムが実現する精密養殖

同社の競争力の源泉は、独自開発したAIビジョン給餌システム「AquaFeed AI」にある。水槽内に設置された複数の高解像度カメラが24時間体制で魚の行動を監視し、遊泳速度、摂餌行動、体色変化などのデータをリアルタイムで解析する。

「従来の養殖では、人間の経験と勘に頼った給餌が主流でした。しかし、それでは給餌量が過剰になったり不足したりして、成長速度にばらつきが出る上、残餌による水質悪化も深刻でした」と浜野氏は説明する。

AquaFeed AIは、魚の食欲を示す30以上の行動指標を機械学習でパターン化し、最適なタイミングと量を自動判定する。導入後、残餌率は0.3%以下まで低減し、成長速度も従来比で27%向上した。さらに、水質管理の負担も大幅に軽減され、換水頻度を週3回から週1回に削減できたという。

「データを見ると、魚は1日の中でも食欲に波があることが分かりました。朝方と夕方にピークがあり、水温が23度を超えると食欲が落ちる。こうした微細な変化に対応できるのがAIの強みです」

テクノロジーは手段であって目的ではありません。私たちが目指すのは、美味しくて安全な魚を、環境負荷を最小限にしながら安定供給すること。そのためにAIを活用しているのです。

浜野健太郎氏

循環式システムで実現する環境配慮型養殖

同社のもう一つの特徴が、閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)の採用だ。使用する海水の98%以上を循環利用し、新規に必要な海水は1日あたりわずか2%のみ。排水は高度なバイオフィルターと物理フィルターで浄化され、環境への影響を極限まで抑えている。

「海面養殖では、糞や残餌が海底に堆積し、富栄養化や赤潮の原因になります。また、養殖魚の逃亡による生態系への影響も問題視されています。陸上養殖ならこれらのリスクをゼロにできます」

さらに、閉鎖環境での養殖は疾病管理の面でも優位性がある。海洋由来の寄生虫や病原体の侵入を防げるため、抗生物質の使用量は海面養殖の10分の1以下。ワクチン接種と予防的な健康管理で、自然免疫力の高い健康な魚を育てている。

水温、塩分濃度、溶存酸素量、pH値などの水質パラメータは、IoTセンサーで常時監視され、クラウド上で一元管理される。異常値が検出されると即座にアラートが発報され、自動制御システムが作動する仕組みだ。「夜中に急なトラブルで現場に駆けつける必要がなくなりました。スマートフォンで遠隔監視・制御できるので、管理コストも大幅に削減できています」

サステナビリティと収益性の両立へ

現在、同社の養殖施設では年間120トンのサーモンを生産しており、首都圏の高級スーパーや飲食店を中心に販路を拡大している。市場価格は海面養殖サーモンより約30%高いが、「国産」「抗生物質不使用」「トレーサビリティ完備」という付加価値が評価され、引き合いは好調だ。

「特にコロナ禍以降、食の安全性への関心が高まり、生産履歴が明確な国産養殖魚のニーズが急増しています。当社では個体ごとに給餌履歴、成長記録、水質データをブロックチェーンで管理し、消費者がスマホで確認できる仕組みを構築しました」

2024年度の売上高は12億円を見込み、2026年度には第2工場を稼働させて生産能力を300トンまで引き上げる計画だ。さらに、養殖ノウハウとAIシステムをパッケージ化し、養殖事業者向けのSaaSサービスとしても展開を始めている。

「日本全国に小規模な養殖事業者は数多くいますが、後継者不足や技術継承の課題を抱えています。私たちのシステムを使えば、経験の浅い人でも高品質な養殖が可能になります。養殖業のDXを推進することで、日本の水産業全体を活性化したいですね」

世界の食料問題解決に向けた展望

浜野氏の視線は、すでに世界市場に向けられている。「2050年には世界人口が97億人に達し、タンパク質需要は現在の1.5倍になると予測されています。海洋資源だけでは到底賄えません。陸上養殖は砂漠地帯でも可能で、水資源が限られた地域でも展開できる。食料安全保障の観点からも重要な技術です」

現在、中東のUAEとシンガポールの投資ファンドから合計15億円の資金調達を実施し、海外展開の準備を進めている。「特に中東は水産資源に乏しく、海水淡水化施設があるため、陸上養殖との親和性が高い。2025年中にドバイでパイロットプロジェクトを開始する予定です」

また、養殖対象魚種の拡大にも意欲的だ。現在はサーモン中心だが、ブリ、マグロ、クエなどの高級魚種への展開を研究中。特にクロマグロの完全養殖には大きな期待を寄せている。「クロマグロは成長が早く、市場価値も高い。ただし水温管理が難しく、ストレスに弱い。AIによる精密な環境制御が実現すれば、陸上での完全養殖も夢ではありません」

最後に今後のビジョンを尋ねると、浜野氏は力強く語った。「テクノロジーの力で、持続可能で収益性の高い養殖モデルを確立する。そして、世界中の食卓に安全で美味しい魚を届ける。それが私たちのミッションです。日本発の養殖テクノロジーで、グローバルな食料問題の解決に貢献していきます」

📝 まとめ
・陸上循環式養殖システムとAI給餌技術で、サーモン養殖の飼料転換効率1.1を達成
・独自開発のAIビジョンシステムで残餌率0.3%以下、成長速度27%向上を実現
・閉鎖循環式で海水の98%を再利用し、抗生物質使用量を海面養殖の10分の1以下に削減
・2026年度に生産能力300トン体制を構築し、中東・アジアへの海外展開を加速

🏢企業情報

会社名 株式会社アクアテックイノベーション
業種 農業・食農テック
役職 代表取締役社長
代表者 浜野 健太郎
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