観光DXとローカルネットワークを武器に、従来の旅行代理店モデルを超えた「体験設計」で地域経済を活性化。デジタルとアナログの融合が生む新たな観光の形とは。
観光業界の構造変革に挑む「体験設計」というアプローチ
編集部
川瀬社長が創業された「旅と文化デザイン」は、従来の旅行代理店とは一線を画すビジネスモデルで注目を集めています。まず、事業の概要を教えていただけますか。
川瀬社長
ありがとうございます。当社は「観光体験商社」と自称していまして、単に旅行商品を仲介するのではなく、地域の文化資源や観光素材を発掘・編集し、新しい体験価値として再構築することに特化しています。具体的には、地方自治体や地域事業者と連携して観光コンテンツを開発し、それをデジタルプラットフォームで流通させる。さらに現地でのオペレーション支援や人材育成まで一貫して手掛けているんです。創業5年で全国37地域とパートナーシップを結び、年間約12万人の旅行者に体験を提供しています。
編集部
「体験設計」という言葉が印象的ですが、具体的にはどのような工夫をされているのでしょうか。
川瀬社長
従来の観光は「見る」が中心でしたが、私たちが提供するのは「参加する」「関わる」観光です。たとえば石川県の伝統工芸地域では、単に工房見学をするだけでなく、職人さんと一緒に朝市で食材を買い、その器で郷土料理を食べるといった「一日職人体験」を設計しました。ストーリーと文脈があることで、同じ景色や工芸品でも記憶に残る体験になる。そのためには、地域の方々との深い対話と信頼関係が不可欠ですね。
編集部
そうした体験設計を支えるデジタル基盤についても伺いたいです。観光DXをどう実現されていますか。
川瀬社長
当社では独自開発の「エクスペリエンス・マネジメント・システム(EMS)」を運用しています。これは予約管理だけでなく、顧客の興味関心データ、地域資源データベース、体験の評価フィードバックを統合したプラットフォームです。たとえば「発酵食品に興味がある30代女性」という顧客プロファイルに対して、新潟の味噌蔵体験や京都の漬物ワークショップを自動レコメンドする。地域側も在庫管理や多言語対応が簡単になり、運営効率が格段に上がりました。アナログな温かさとデジタルの効率性、両方を大切にしています。
「見る観光」から「関わる観光」へ。体験には文脈とストーリーが必要です
── 川瀬社長
コロナ禍を経て見えた「観光の本質」と事業転換
編集部
2020年以降のコロナ禍は観光業界に大きな打撃を与えました。御社はどのように乗り越えられたのでしょうか。
川瀬社長
正直に言えば、創業3年目での危機でしたから存続自体が危ぶまれました。インバウンドも国内旅行も止まり、売上は一時9割減。ただ、そこで気づいたのは「観光は移動ではなく、関係性である」ということでした。そこで私たちは「リモート体験プログラム」を立ち上げたんです。職人さんとオンラインで繋ぎ、事前に送った素材で一緒にものづくりをする。あるいは農家さんと会話しながらその場で収穫した野菜を購入できるオンラインマルシェなど。
編集部
オンラインで観光体験というのは、当時としては画期的だったと思います。反響はいかがでしたか。
川瀬社長
予想以上でした。特に海外在住の日本文化ファンや、物理的に旅行が難しい高齢者、障害のある方々から大きな支持をいただきました。ある視覚障害のある参加者が「音と会話で感じる旅は、むしろ想像力を刺激される」と仰ってくださって。これは観光のバリアフリーという新しい可能性を示唆していると感じました。コロナ禍の2年間で約8,000人がオンライン体験に参加し、そのうち3割以上が後に実際に現地を訪れてくださったんです。
編集部
つまりオンライン体験が実際の訪問への「入口」になったわけですね。現在もこのサービスは継続されているのでしょうか。
川瀬社長
はい、今では「プレ・ポスト・トラベル」という概念で統合しています。旅行前にオンラインで地域と繋がり、現地訪問で深い体験をし、帰宅後もコミュニティで関係が続く。この三層構造が、一過性の観光を「継続的な関係」に変える鍵だと考えています。実際に年間3回以上同じ地域を訪れるリピーターが全体の4割を超えました。観光を「点」ではなく「線」で捉える発想が、地域にとっても持続可能な観光に繋がっています。
コロナ禍で学んだのは、観光は移動ではなく関係性だということ
── 川瀬社長
地域と共に成長する──パートナーシップ経営の哲学
編集部
御社のビジネスモデルは地域との深い連携が前提ですが、パートナーシップ構築で大切にしていることは何でしょうか。
川瀬社長
「対等な関係」であることが最も重要です。私たちは都市部の企業として地域に「教える」立場ではなく、地域の知恵と文化を「学ばせていただく」姿勢を常に持っています。具体的には、収益モデルも地域側が主体になるよう設計しています。当社の取り分は体験料金の15〜20%で、残りは地域事業者や自治体に還元。さらに毎年、パートナー地域を招いた「観光体験サミット」を開催し、成功事例の共有や課題解決のワークショップを行っています。
編集部
地域側から見て、御社と組むメリットはどこにあるのでしょうか。
川瀬社長
まずマーケティングとデジタル対応の支援ですね。多くの地域事業者は素晴らしい資源を持ちながら、それを発信する手段やノウハウが不足しています。当社はSNS運用、多言語サイト構築、決済システム導入などを包括的にサポートします。また、若手人材の育成プログラムも提供していて、地域の20〜30代が「観光プロデューサー」として活躍できる環境を整えています。実際、当社のプログラム卒業生が地元で起業した事例も10件以上あります。
編集部
今後、さらに拡大していく上での課題や展望をお聞かせください。
川瀬社長
課題は人材確保と教育です。体験設計には文化的感受性とビジネススキルの両方が必要で、そういう人材は市場に少ない。そこで今年から「観光体験デザイナー養成アカデミー」を開講しました。半年間のプログラムで、すでに50名が学んでいます。展望としては、アジア市場への展開ですね。特に台湾やタイの旅行者は日本の地方文化に強い関心を持っています。現地の旅行会社と提携し、「ディープ・ジャパン」をテーマにしたプレミアム体験ツアーを来年から本格始動します。最終的には、世界中の人が日本の地域文化と継続的に繋がるプラットフォームを作りたいですね。
編集部
最後に、川瀬社長が描く「理想の観光の形」とは何でしょうか。
川瀬社長
それは「旅を通じて人生が豊かになる」ことです。単なる非日常の消費ではなく、新しい価値観との出会い、人との繋がり、自分自身の再発見。そういう体験が、旅行者の人生に長く影響を与える。同時に、地域にとっても誇りと経済的持続性をもたらす観光。そんな「旅行者も地域も共に成長する観光」を実現したいと思っています。観光は平和産業です。文化を尊重し合い、理解し合うことで、世界はもっと優しくなれると信じています。
旅を通じて人生が豊かになる。それが私たちが目指す観光の形です
── 川瀬社長
まとめ
・「観光体験商社」として地域資源を体験価値に再編集し、デジタルプラットフォームで流通
・独自開発のEMSで観光DXを実現、アナログの温かさと効率性を両立
・コロナ禍にオンライン体験を開発し「観光は関係性」という本質を再発見
・地域との対等なパートナーシップと収益還元モデルで持続可能な観光を推進
・独自開発のEMSで観光DXを実現、アナログの温かさと効率性を両立
・コロナ禍にオンライン体験を開発し「観光は関係性」という本質を再発見
・地域との対等なパートナーシップと収益還元モデルで持続可能な観光を推進
企業情報
| 会社名 | 株式会社旅と文化デザイン |
|---|---|
| 業種 | 観光・ホテル・旅行 |
| 役職 | 代表取締役社長 |
| 代表者 | 川瀬 明日香 |