eスポーツ施設という「居場所」が持つ可能性
「単なるゲームセンターではなく、地域の人々が集まるコミュニティハブを作りたかった」と語るのは、株式会社アリーナネクストの高柳祐介CEOだ。同社は2018年の設立以来、地方都市を中心にeスポーツ施設「ARENA NEXUS」を展開し、現在では全国15拠点、総座席数1,200席を超える規模にまで成長した。2023年度の売上高は18億円、前年比135%の成長を記録している。
高柳氏が注目したのは、eスポーツ市場の急速な拡大だ。国内市場規模は2023年時点で約150億円に達し、2025年には200億円を超えると予測されている。しかし、その多くはオンライン配信やスポンサーシップによるもので、リアルな体験価値を提供する施設は少なかった。「オンラインの盛り上がりをオフラインに落とし込む。そこに大きなビジネスチャンスがあると確信しました」
同社の施設は、最新のゲーミングPC(240Hzモニター、RTX4090搭載機)を完備し、1時間500円から利用できる価格設定が特徴だ。さらに、座席の30%はVIPルームとして個室化し、企業の研修利用やプロチームの練習拠点としても機能する。月額会員は全国で2万5千人を突破し、稼働率は平日60%、週末は85%を維持している。
地域との共創が生む持続可能なエコシステム
アリーナネクストの特徴は、単なる施設運営に留まらない地域連携モデルにある。各拠点では地元の商工会議所や教育委員会と連携し、月に2〜3回の地域イベントを開催している。例えば、富山拠点では地元の高校生を対象とした「eスポーツ甲子園」を主催し、年間200名以上の生徒が参加。優勝チームには海外遠征の機会も提供している。
「eスポーツを通じて、地方の若者にキャリアパスを示したい」と高柳氏は強調する。同社では、プロゲーマー、ストリーマー、イベント運営、映像制作など、eスポーツに関わる多様な職種を紹介するキャリア教育プログラムを実施。実際に施設スタッフから正社員登用された例も15名にのぼる。
また、地域の飲食店とのコラボレーションも積極的だ。施設内のカフェスペースでは地元食材を使ったメニューを展開し、大会開催時には周辺飲食店への来客誘導も行う。「施設だけが潤うのではなく、地域経済全体にプラスの影響を与える仕組みを作ることが重要です」
eスポーツは若者だけのものではありません。50代、60代の方々も『孫とのコミュニケーションツール』として興味を持ってくださる。世代を超えた交流の場になり得るんです。
高柳祐介CEO
プロチーム運営とコンテンツIP開発への挑戦
2022年、同社は自社プロチーム「NEXUS GAMING」を設立した。『Apex Legends』『VALORANT』『ストリートファイター6』の3タイトルで、合計18名の選手が所属。初年度から国内大会で準優勝2回、ベスト4入り5回という成績を残している。
プロチーム運営の目的は、単なる競技成績ではない。「選手たちが施設に常駐し、一般利用者と交流できる環境を作ることで、ファンエンゲージメントを高めています」と高柳氏。実際、選手による指導イベントは毎回100名以上の応募があり、施設の認知度向上に大きく貢献している。
さらに注目すべきは、オリジナル大会のIP化戦略だ。2023年に立ち上げた「NEXUS CHAMPIONSHIP」は、全15拠点を予選会場とした全国規模の大会で、決勝戦はオンライン配信で累計視聴者数35万人を記録。スポンサー企業も12社が参画し、大会単体で8,000万円の収益を生み出した。「コンテンツとして成立する大会を作り、それ自体をメディア資産にする。これが次の成長ドライバーです」
今後は大会映像のアーカイブ配信やハイライト動画の制作にも注力し、デジタルコンテンツ収益を全体の30%まで引き上げる計画だ。
2030年に向けた成長戦略と業界への提言
高柳氏は今後5年間で、拠点数を30に倍増させる計画を明かす。特に注力するのが、人口10万人規模の地方中核都市だ。「東京や大阪はすでにレッドオーシャン。むしろ娯楽施設が少ない地方にこそ、eスポーツ施設のニーズがあります」
実際、同社の収益分析では、地方拠点の方が利用単価が15%高く、会員継続率も都市部より10ポイント高いというデータが出ている。これは競合が少ないことに加え、地域密着型の運営が支持されているためだ。
資金調達面では、2024年中にシリーズBで10億円の調達を計画。調達資金は新規出店と、施設の多機能化に充てる。具体的には、VR/ARエリアの拡充、配信スタジオの設置、レンタルスペース事業の強化などだ。「施設を『eスポーツだけの場所』にしない。音楽ライブ、展示会、企業イベントなど、多目的に使えるエンタメ複合施設へと進化させます」
業界全体への提言として、高柳氏は社会的認知の向上を挙げる。「eスポーツはまだ『遊び』と見られがち。しかし実際には、反射神経、戦略的思考、チームワークなど多くの能力が求められる。教育的価値を正しく伝えることが業界の責務です」
最後に今後のビジョンを尋ねると、高柳氏は力強く語った。「2030年までに、すべての県に最低1拠点を作る。そして地方に住んでいても、世界レベルのeスポーツ体験ができる環境を整える。それが私たちのミッションです」
ビジネスとして成立させながら、社会的価値も生み出す。その両立こそが、これからのエンタメ企業に求められる姿勢だと考えています。
高柳祐介CEO