肌診断デバイスから始まったイノベーション
東京・表参道に本社を構える株式会社ビューティテックラボは、AIによる肌解析技術とパーソナライズド化粧品の製造販売を行うビューティテック企業だ。2019年の創業以来、従来の画一的な化粧品販売モデルとは一線を画し、顧客一人ひとりの肌データに基づいたオーダーメイド型の美容ソリューションを提供してきた。
「美容業界に長く携わる中で、既製品では解決できない肌悩みを抱える方々と数多く出会ってきました」と語るのは、代表取締役CEOの藤井香織氏。大手化粧品メーカーで15年間にわたり商品開発に従事した後、テクノロジーの力で美容業界に革新をもたらすべく同社を立ち上げた。
同社の中核となるのは、独自開発した肌診断デバイス「SkinScope Pro」だ。このデバイスは、肌の水分量、皮脂量、メラニン量、キメ、毛穴など23項目を数値化し、わずか90秒で詳細な肌状態を可視化する。測定データはクラウド上に蓄積され、AIが過去のデータや気候条件、生活習慣なども加味して最適な化粧品処方を導き出す仕組みだ。
データドリブンな化粧品開発プロセス
ビューティテックラボの強みは、単なる肌診断にとどまらず、診断結果に基づいた化粧品の即時製造まで一貫して行える体制にある。現在、全国主要都市に展開する12店舗では、店頭に設置された小型製造ラボで、診断後30分以内に顧客専用の化粧品を調合・製造できる。
「従来の化粧品開発では、ターゲット層を想定して大量生産するのが一般的でした。しかし、私たちは逆のアプローチを取っています。個人のデータから始めて、その人だけの処方を作る。これが真のマスカスタマイゼーションです」と藤井氏は説明する。
同社のデータベースには、累計15万人以上の肌データが蓄積されており、これらのビッグデータを機械学習で解析することで、予測精度は年々向上している。実際、顧客満足度調査では92.3%が「肌状態の改善を実感」と回答し、リピート率は87%に達する。
化粧品の処方は、美容皮膚科医3名と薬剤師2名を含む専門チームが監修。ビタミンC誘導体、ナイアシンアミド、レチノール、ペプチドなど、エビデンスに基づいた有効成分を、個人の肌質や悩みに応じて最適な濃度で配合する。さらに、季節や環境の変化に応じて処方を調整する「シーズナルチューニング」サービスも提供している。
サブスクリプションモデルで実現する継続的ケア
ビューティテックラボのビジネスモデルは、月額制のサブスクリプション型を採用している。基本プランは月額8,800円で、毎月1回の肌診断と化粧水・美容液・クリームの3点セットが提供される。プレミアムプランでは月額14,800円で、より高濃度の有効成分配合や追加アイテムも選択可能だ。
「美容は一時的なケアではなく、継続が重要です。サブスクモデルにすることで、顧客の肌状態を長期的にトラッキングでき、季節変化やエイジングに合わせた最適な処方変更が可能になります」
テクノロジーはあくまでツール。最終的には人の肌に触れ、カウンセリングする人間の感性が不可欠です。データと人の目、両方を組み合わせることで、本当に価値あるサービスが生まれると信じています。
藤井香織氏
実際、同社では店舗に「ビューティサイエンティスト」と呼ばれる専門スタッフを配置。化粧品成分や皮膚科学の知識を持つ彼らが、AIの分析結果を解釈し、顧客とのコミュニケーションを通じて最終的な処方を決定する。この人とテクノロジーの融合こそが、同社の競争優位性となっている。
2023年度の売上高は23億円を突破し、前年比165%の成長を記録。2024年度は新規出店を加速し、年内に全国20店舗体制を目指す。また、BtoB事業として、大手ドラッグストアやエステサロンへの肌診断デバイスのライセンス提供も開始し、新たな収益の柱として育成中だ。
ウェルネス領域への展開と未来ビジョン
藤井氏の視野は、スキンケアにとどまらない。同社は2024年春、インナーケア領域に進出する計画を発表した。肌データと連動したパーソナライズドサプリメントの開発を進めており、外側と内側の両面から美容をサポートする統合的なウェルネスプラットフォームを構築する。
「肌は体の状態を映す鏡です。睡眠、栄養、ストレスなど、様々な要因が肌に影響します。私たちは肌データを起点に、その人の全体的なウェルビーイングを向上させるサービスへと進化させたいのです」と藤井氏は展望を語る。
技術面では、遠隔肌診断システムの開発にも注力している。スマートフォンのカメラを使い、自宅で簡易的な肌診断が可能になるアプリを開発中で、2024年夏のリリースを予定。これにより、店舗に来店できない地方在住者や多忙なビジネスパーソンにもサービスを届けられる。
また、同社は2023年、シリーズBラウンドで12億円の資金調達を実施。この資金を研究開発とマーケティングに投入し、2026年までに会員数50万人、売上高100億円の達成を目指す。さらに、アジア市場への展開も視野に入れており、まずは韓国、台湾でのテストマーケティングを計画している。
「美容業界は今、大きな転換期を迎えています。消費者は単に商品を買うのではなく、自分だけの体験、自分だけの価値を求めている。私たちはテクノロジーの力で、一人ひとりに寄り添った美容体験を民主化したい」
データとサイエンス、そして人の温かさを融合させた新しい美容の形。ビューティテックラボの挑戦は、業界全体に新たな可能性を示している。